今回の金融行政方針では、「金融行政の目指す姿・目的」のひとつとして「活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保」が掲げられているのですが、その中で金融商品の販売会社に対して次のような厳しい指摘を行っています。
販売会社については、従来、投資信託の回転売買等手数料稼ぎを目的とした顧客本位とは言えない経営の問題が指摘されている他、顧客が支払っている手数料の透明化等についても改善の余地が残されている。販売会社が、真に顧客のためになる質の高い金融商品・サービスを提供することで、顧客の安定的な資産形成が促進され、その結果として販売会社の収益が確保される、という姿を目指していくことが望まれる。回転売買といえば日本の投資信託業界の悪弊の代表ですが、金融庁は明確にこの問題を認識していることを明確に示すことで、金融機関に反省を促しています。また、「手数料の透明化」という指摘もユニークです。いっけん何のことかわからないのですが、おそらくデリバティブ取引などを組み込んだ複雑な金融商品のことを指しているのでしょう。こういった商品は実際に金融機関がどれだけの手数料を運用の過程で取っているのか受益者からはほとんど見えません。この点に関して、霞が関ウオッチャーが鋭い指摘をしています。
証券会社がピンチ!金融庁が決定した「手数料の透明化」の衝撃 あの「御三家」が窮地に立つ?(現代ビジネス)
歳川氏によると金融庁がターゲットにしているのは仕組債のようです。たしかに仕組み債というのは酷い商品が多く、ときおり損失を被った受益者と金融機関の間で係争が起こるほどです。もともとは機関投資家向けの商品でしたが、最近では個人投資家にも盛んに営業活動がなされており、私のところにもよく証券会社から勧誘の電話がかかってきます。そもそも仕組債はリスクプレミアムの計算が難しく、個人投資家レベルでは理解が不可能な商品ですから、個人投資家がもっとも“買ってはいけない商品”です。それを大手証券会社が大々的に販売しているということで、いよいよ金融庁も堪忍袋の緒が切れたということでしょうか。
このように金融機関に対する厳しい姿勢を強めている金融庁ですが、これを単純な規制強化と捉えるべきではないでしょう。金融庁が求めているのは、「真に顧客のためになる質の高い金融商品・サービスを提供することで、顧客の安定的な資産形成が促進され、その結果として販売会社の収益が確保される、という姿を目指していくこと」だからです。つまり、焼き畑農業をやめて持続的に儲かる商売をしろとアドバイスしているのです。この点に関して森本紀行氏が解題を行っていました。
金融機関に創意工夫を促す強制力(「森本紀行はこう見る」)
森本氏は現在の金融庁の姿勢を次のように指摘しています。
「金融行政方針」では、金融機関の創意工夫を支援するという表現すら使われています。規制から支援へ、この転換は、世界の金融規制の潮流のなかでも異色を放つもので、私などには、日本の誇りとすら感じられるものです。やはり、今回の金融行政方針は、なかなか立派なものです。ちなみに、近年の金融庁の動きを主導しているのは森信親長官だそうです。嘘か真かわかりませんが、歳川氏の記事によると森長官は米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長に電話をかけて話ができる唯ひとりの日本人だとか。大物長官に率いられた金融庁の今後の動きにも注目していきたいと思います。