2015年10月11日

『スティグリッツ入門経済学』-的外れな意見に惑わされないためにも教科書ぐらいは読んでおきたい



先日、経済産業省の中堅幹部と一緒に酒を飲む機会があったのですが、盛り上がった話題のひとつが、日本のマスコミに登場する経済政策批判には的外れなものが多く、役所としても反論のしようがなくて困っているということでした。なぜ反論に困るのかというと、前提となっている経済学の原理が無視されていることが多いからです。それもそのはずで、日本はマスコミだけでなく一般庶民も経済学に対する理解度が低い。だからマスコミに登場する的外れな意見に対してオカシイと感じないのでしょう。なぜ経済学に対する理解度が低いのか。おそらく前提として押さえておくべき基本的な知識が共有されていないからです。私自身も文学部出身なので社会人になったころは経済学の知識はゼロでした。そんな人がマスコミに登場する的外れな意見に惑わされないようにするためには、どうするべきでしょうか。やはりスタンダードな教科書ぐらいは読んでおいた方がいいということになります。そんな1冊としてとくに気に入っているのが、ジョン・E・スティグリッツ教授らがまとめたスティグリッツ入門経済学 第4版です。

経済政策についての見方にはいろいろな立場があるのですが、例えばマルクス経済学の立場から現在の経済政策を批判するというのなら理解できます。それ流派の違いによる論争だからです。ところが、実際にマスコミに登場する経済政策批判の中には、経済学の前提を無視して、たんに「世間知」だけで批判しているものも少なくありません。これは“エコノミスト”と呼ばれる人々も同じです。本屋に行けば、こうした“トンデモ経済本”あるいは“ハルマゲドン経済本”とでもいうしかないタイトルが多く並び、新聞・雑誌でもトンチンカンな経済論説がときおり登場します。こうした日本の状況は、一部の経済学者からも厳しく批判されており、例えば野口旭氏は経済学を知らないエコノミストたちで激しい実名批判を展開していました。



こういう状況は、じつに不毛なことです。やはり議論をするためには、最低限の理論や知識を共有しておかなければ話になりません。その点、アメリカという国はさすが資本主義の総本山だけあって、経済学者の大事な役割に誰が読んでも理解できる基本的な教科書を書くという仕事があります(売れると儲かるので、収入の面でも大事な仕事です)。こうしたスタンダードな教科書を読んで、少なくとも主流派経済学についての基本的知識を持っておくのは、資本主義社会で生きる社会人として必要なことでしょう。私のように専門的に経済学の教育を受けていない人はなおさらです。

主流派経済学のスタンダードな教科書としては、最近ではマンキュー入門経済学 (第2版)が人気なのですが、個人的にはスティグリッツ教授のスティグリッツ入門経済学 第4版の方が好みです。あくまで個人的な印象ですが、スティグリッツ教授の経済学には、経済学が本来持つべき倫理性というものが感じられるからです。現代社会に対する批判意識が失われていないし、世の中の問題を解決するための「手段」としての経済学という意識が鮮明なのです。

その意味でも、スタンダードな経済学入門の教科書を選べといわれれば、私は本書を一番に推したい。入門書なので高校生でも読める文体ですが、中身は非常に濃いものがあります。これ1冊で、少なくとも近代経済学の基本概念は理解できるようになっています。また、日本にもついての記述が多いのも日本人読者にとっては興味深いものがあるでしょう。日本の経済成長がなぜ可能だったのか、その後の停滞の原因がどこにあったのかを経済学の基本概念に沿って探っていく機会にもなります。

じつは本書はスティグリッツ ミクロ経済学スティグリッツ マクロ経済学を合わせた3分冊の1冊なのですが、普通の市民の教養としては、この1冊で十分です。これぐらいの経済学の教養があれば、もうマスコミに登場するトンチンカンな意見に惑わされることはないでしょう。逆にテレビに登場する“エコノミスト”の“テレビ芸”に対して鼻で笑えるようになるはずです。
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