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2015年10月28日

「3階建て」「4階建て」投資信託のトータルリターンが悲惨なことになっている



日本で販売されている投資信託にはフィデューシャリー・デューティーの観点から問題のある商品が多いのですが、とくに酷いのが通貨選択型やカバードコール戦略などオプション取引を複数組み込んだいわゆる「3階建て」「4階建て」投資信託です。以前にもブログ(現サテライト版ブログ)で問題点を指摘しました。

オプション取引は怖いぞ-「三階建て」「四階建て」投信はそのうち大変なことになる(アーツ&インベストメント・スタディーズ~国際分散投資の研究と実践(別科))

そこで「ここ数年は上げ相場が続いているので目立ちませんが、相場に大きな変動があった場合、大きな損失が発生する可能性があります。「三階建て」「四階建て」投信は、そのうち大変なことになるのではという懸念でいっぱいです。」と書きましたが、まさに恐れていた事態が起こっています。ここ数カ月の新興国通貨暴落や世界的な株価下落など相場のボラティリティーの高まりによって、オプション取引を組み込んだ3階建て、4階建て投信のトータルリターンが悲惨なことになっています。

オプション取引を組み込んだ投信の多くは毎月分配型であり、オプション取引を組み込む理由は、少しでも分配金原資としてプレミアム収入を得ることですから、ほとんどがオプションの「売り」を行っていると想像できます。ところがオプションの「売り」というのは、一定のプレミアムを得る代わりに予想外の相場変動が起こったときに利益は放棄しながら損失リスクは無制限に負う仕組みですから、思惑と反対方向に相場が大きく動くと、大きな損失を被るリスクがあります。

ここ数カ月、世界的に株価は大きく変動しましたので、オプション取引で大きな損が出たようです。具体例として4階建て投信として有名な大和住銀投信投資顧問の日本株アルファ・カルテット(毎月分配型)を見てみましょう。以下はモーニングスターのサイトのファンド比較機能を使ってTOPIX連動のインデックスファンドの代表である三井住友トラスト・アセットマネジメントのSMT TOPIXインデックス・オープンとトータルリターンを比較したものです。


(出所:モーニングスター)

とんでもない差がついています。ちなみにトータルリターン1年(9月30日段階)は日本株アルファ・カルテットがマイナス21.63%に対してSMT TOPIXインデックス・オープンはプラス8.04%。絶望的な差です。普通にインデックスファンドに投資していれば、ここ数カ月の暴落を含めても8%のリターンを得ていたものが、オプション取引を組み込んだため1年間で投資額の20%を失ってしましました。(念のために書きますが、この比較は分配金を含むトータルリターンです。)

もうひとつ例を上げましょう。やはり3階建て投信として有名な損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントの好配当グローバルREITプレミアム・ファンド通貨セレクトコースです。やはグローバルREITに投資するインデックスファンドであるSMTグローバルREITインデックス・オープンとのトータルリターン比較が以下のようになります。


(出所:モーニングスター)

これも酷い。やはりトータルリターン1年は好配当グローバルREITプレミアム・ファンド通貨セレクトコースのマイナス10.55%に対してSMTグローバルREITインデックス・オープンはプラス14.13%です。これまた絶望的な数字。普通にインデックスファンドに投資していれば1年で14%も資産が成長したのに、為替取引やオプション取引を組み込んだばかりに1年間で資産の1割を失ってしまいました。じつにバカバカしい話です。


両ファンドとも、わずかなプレミアム収入を得ても、相場急変で大きな損を抱えてしまった。まさに“コツコツ・ドカーン”とか、“99勝1敗でも全財産を失う”と言われるオプション取引の負けパターンをきっちりとなぞってしまいました。今後の相場動向によっては、再びインデックスに追いつくかもしれないという人もいるでしょうが、これだけ差が付くとオプション取引の性質上、まず無理でしょう。

さて、問題はここからです。はたしてオプション取引を組み込んだ投信を保有している人は、なぜいま自分が損をしているのか理解しているのでしょうか。あるいは分配金が振り込まれているので、まだ損したことを知らないのかもしれません。もうしそうなら、いずれトータルリターン通知が届いたとき、びっくりするでしょう。私は、ちょっとした社会問題になってもおかしくないと思う。そうなれば、金融庁も黙っていない可能性があります。さてそのとき、3階建て・4階建て投信を大々的に販売してきた金融機関は、どうやってEXITする気なのでしょうか。いつものように素知らぬ風で頬被りを決め込むつもりでしょうか。しかし、そういった姿勢は、いまや許されないはずです。少なくともフィデューシャリー・デューティーの観点から決して許されないはずです。
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