11月4日に日本郵政グループ3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)が東京証券取引所に上場します。売出総額は1兆円を超えるなど、NTT以来の超大型IPOです。私のところにも証券会社から案内が送られてきました。個人投資家のなかでも、今回のIPOに参加しようと考えている人は少なくないかもしれません。ただ、私自身は、なんともモヤモヤした印象を抱いています。主幹事会社の動きなどを見ていると、すべてが異様な感じなのです。この異様さは、いったい何なのでしょうか。
今回のIPOはジョイント・グローバル・コーディネーターを野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券が担当し、国内売出し主幹事会社は野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券、大和証券、みずほ証券、SMBC日興証券、岡三証券(特定主幹事)東海東京証券(特定主幹事)。大手証券会社が総動員です。これだけの大型IPOですから当然といえば当然なのですが、それでも各社の気合いの入れようが異様です。シンジケート(引受団)で特設サイトを作り、テレビCMまで流しています。
一企業のIPOに対してこれほどプロモーションに力を入れるのは異例とも言えますが、それには理由があります。なんと今回の売出し株式の95%は個人投資家に売ることになっているのだとか。
日本郵政、個人に95%販売 投資家の拡大と安定株主化目指す(ロイター)
これだけの巨大企業のIPOでありながら、売出し株式の95%が個人に販売されるというのは、やはり異様です。大手証券会社の力の入れようと合わせてみても、なんとも言えないモヤモヤした気持ちになります。しかも、ロイターの記事は、とても重要なことをさらりと書いている。
この背景には、機関投資家が、日本郵政株に対し冷めた目を向けていることもあるようだ。「機関投資家として、保有できない」と大手生保の首脳が断言しました。機関投資家がだれも買わないから、個人に売りつけるということです。やはり異様な感じを受けます。
郵便、銀行、生命保険の集合体となる日本郵政グループの収益は、少子・高齢化が進む国内市場に依存しており、大きな成長は見込めないのが実情だ。
ある大手生命保険首脳は「郵政グループは成長の魅力が乏しく、キャピタルゲインは望めない。機関投資家としては、保有できない」と言い切る。当然、主たる販売先は個人投資家にならざるを得ない。
もちろんIPOですから、公募価格はディスカウントされているという見方もあるでしょう。たしかに予想される公募価格ならPBRは1倍を切るでしょう。ただし、ここにも落とし穴があります。バリュー株投資をしている人なら常識なのですが、銀行・保険など金融会社のバリュエーション分析というのはプロでも難しい。一般の事業会社と財務項目の意味がまったく異なるからです。だから、たとえPBRが1倍以下でも単純に割安とは言えません。
はたして日本郵政グループのIPOに個人投資家が簡単に飛びついていいものかどうか。基本的にIPOというのは、極めてリスクの高い投資だということも留意するべきでしょう。だから、これまで株式投資の経験がない人が安易に手を出すことの是非も問われます。にもかかわらずテレビCMまで作って個人に株を売ろうとする引受団、そして政府の姿勢に、なんとも言えない異様な感じを受けるのです。これが、壮大な嵌め込みにならないことを祈るばかりです。
ところで、「じゃあ、お前はどうするのだ」と問われるかもしれません。当然ながら参加しません。そもそも私はIPO投資は一切しない方針だからです。しかし、日本郵政グループにまったく投資しないのかといえば、そうでもありません。私はTOPIX連動のETFとインデックスファンドを保有していますから、3社が上場すれば時価総額ウエートで間接的に投資することになるでしょう。幸いにも3社の株価が順調に上昇し、配当も安定的に出るなら、そのリターンはファンドを通じて享受することになります。その程度の関係で十分だと考えています。