2015年9月28日

『新・企業価値評価』-最初に読むべき入門書



経済産業省がまとめた「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト最終報告書」(通称:伊藤レポート)は、今後の日本の株式市場の在りようが大きく変わる可能性を示唆したものであり、個人・機関かかわらず投資家必読の文書といえます。その取りまとめ座長を務めた一橋大学の伊藤邦雄教授の著書が新・企業価値評価。これを読めば「伊藤レポート」の理論的背景がどこにあるのか非常によくわかる。企業価値評価について勉強する場合、最初に読むべき必読の入門書といえるでしょう。

本書は、企業価値評価に関する入門書としてロングセラーだった『ゼミナール企業価値評価』を改訂・改題したもの。恐らく大学などで経済・経営系の勉強をしていた人からすれば定番の教科書でしょう。学部後期の学生でも読める書き方になっているので、私のように専門的に経済の勉強をしたことのないサラリーマンでもわかりやすい解説になっており、現実の日本の企業を取り上げたケーススタディーも豊富なので、面白く読むこともできます。

「分析編」で財務諸表の読み方の基礎を理解しながら、会計・財務・経営戦略といった視点から総合的に価値評価の分析の手順を解説し、「評価編」で具体的な分析ツールを用いた価値評価の手法を紹介・解説しています。分析編で企業の構成要素に対する本質的な解説がなされていますので、最新の評価モデルに対する理解度がグッと上がるでしょう。とくに異なる評価モデルを採用することで、分析対象企業に対する見方が一変してしまうという現象が非常に面白い。最後の「創造編」は小説仕立ての例題演習ですが、なかなか愛嬌があります(小説部分を書くのに、誰かアドバイザーがいたのかな)。

企業価値の創造とは、基本的に持続的なものでなければいけません。だから、本書でも「株価至上主義」や「短期業績至上主義」は批判されています。ただ難しいのは、こういった株価至上主義や短期業績主義に対する否定は、場合によっては経営者の自己保身の隠れ蓑になってしまうこと。それを防ぐためには、投資家は継続的に企業価値評価を行い、その結果を企業に投げかけなければならないし、経営者は自己保身でないことを具体的に説明する必要がある。それが投資家と企業の対話ということです。本書で説明されているのは、その対話のための形式知であり共通認識です。

そう考えると「伊藤レポート」の意味も見えてきます。伊藤レポートで伊藤教授が求めているのは、持続的な成長のための企業と投資家の「対話」です。ということは、投資家に対しても対話の前提となる知識の習得を求めているともいえる。伊藤レポートは企業だけでなく、投資家に対しても厳しい自己鍛錬を求めているのでしょう。私は、少なくとも個別企業を銘柄選択する個別株投資を行うなら、個人投資家といえども当然のことだと感じました。それが株主責任を果たすということです。

こうしたことを考えると、本書は個人投資家にとっても非常に有益な本です。また、マネジメントに携わるビジネスマンにとっても非常に役に立つ1冊でしょう。企業価値評価について勉強する場合、最初に読むべき優れた入門書だと断言できます。

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