サイト内検索
2015年9月27日
レアル暴落・高インフレの下でブラジル人はどのような生活を送ったのか
新興国通貨が軒並み暴落しているのですが、とくにひどいのがブラジル・レアル。過去最安値を更新したことが日経新聞でも報じられていました。
ブラジルレアルが過去最安値 4日続落、政治の混乱で加速(日本経済新聞電子版)
これだけ通貨が暴落すると、当然ながらインフレ率も高まります。ブラジルのインフレ率はここ数年、年6%台程度だったのですが、ここにきて10%に迫る勢いです。ただ、ブラジルにとってこの程度の通貨下落・インフレ率上昇は、それほど珍しいことではありません。インフレ率でいえば1990年代には年率2000%を超える時期もありました。これほどのインフレになると、通貨の実質価値は日々、目に見える形で下落していきます。そのような通貨暴落・高インフレの下でブラジル人は、どのような生活をしていたのでしょうか。じつは知人に高インフレ下のブラジルで生活していた人がおり、その人から聞いた話を思いだしましたので、ちょっと紹介したいと思います。それは、ちょっとした投資のヒントにもなるでしょう。
インフレ率が年2000%に迫るような1990年代、私の知人はあるメーカーのブラジル子会社の社長をしていたそうです。インフレ下での企業経営は、日本の常識が通じません。まず、販売価格は毎日値上げします。そして現金は実質価値が日々低下するので、売り上げが入金されれば、即座に原料調達に充てる。実物がもっとも価値があるので在庫は宝となります。ところが売上げが立つのと入金されるのには、タイムラグがあるので、同じ量の原料が仕入れられないケースもある。そうなるとインフレ率を加味した値上げ幅を設定せざるを得ないので、ますます物価が上昇するという悪循環に陥ります。
さらに大変なのが従業員への給与支払いです。月1回の支給ではインフレ負けしてしまうので、月2回の支給となり、金額も毎回労使交渉によって決定される。だから経営者は毎週、労働組合との賃金交渉に明け暮れたそうです。給与が振り込まれれは、労働者はすぐに全額を引き出し、その足でスーパーマーケットに走ります。とにかく買えるだけの食糧と生活必需品を買い込むのだとか。だから給料日には、どのスーパーマーケットのレジも長蛇の列ができる(このためかブラジル人家庭の冷蔵庫は大きいらしい)。通貨が暴落し、高インフレになるというのは、こういうことです。つまり、ブラジル人ですら誰もレアルなんか欲しがらない。それよりも現物が必要ということです。
ところで庶民はありったけの現金を現物に交換できるのですが、資産をたくさん持つブラジルのお金持ちはどうしていたのでしょうか。じつはここが面白い。いかにも新興国らしい話ですが、なんと銀行が大口預金者にだけ、こっそりとインフレ率を加味した優遇金利を提供していたとか(このあたりは伝聞なので確証はありません)。また、ブラジルのお金持ちはレアルだけでなくドル建て資産などもある程度保有して、リスクヘッジしているのが普通だそうです。これは、非常に示唆に富む話です。つまり、ブラジル人すらレアルを信用せずに、資産を複数の通貨に分散させている。
ところが世界にはブラジル人ですらそんなに欲しがらないレアルを欲しがる奇特な人がいる。それがFXでブラジル・レアル買いをしたり、ブラジル・レアル建て債券を買ったり、通貨選択型投資信託でなぜかブラジル・レアルを選択してしまう一部の日本人投資家です。たしかにレアルは高金利通貨です。しかし、その高金利は通貨下落・高インフレと表裏一体です。そもそも金利が高いのは、そうしないとインフレが抑えられない、また経常赤字による実需から自国通貨が売られて為替レートが下落すのを防げないからです。きちんとした理由があるわけですから、べつに投資対象として有利というわけではありません。
ブラジルに投資するのが悪いといっているのではありません。しかし、外貨資産への投資の大前提として、高金利通貨は大きく下落することがあるということは知っておかなければなりません。ブラジルの庶民なら、レアルを現物に変えることで通貨下落とインフレから生活を防衛することができます。しかし、レアルを使うことのできない日本人は、ただ指をくわえて通貨下落を眺めることしかできません。これはブラジル・レアルだけでなく、南ア・ランドやトルコ・リラなど新興国通貨に共通することです。
私は新興国への投資が好きなのですが、いちばん大事なのは徹底した分散だと考えています。実際にブラジルをはじめとした新興国のお金持ちは、自国通貨への集中投資はしていません。彼らこそ、さまざまな通貨に投資することで自国通貨の脆弱性をヘッジしている。「郷に入れば郷に従え」ではないですが、新興国に投資するなら、ぜめて現地のお金持ちの手法にならいたいものです。幸いなことに現在ではインデックスファンドという低コストで多くの新興国に分散投資できるツールがあるのですから、こういった商品を使うのがもっとも合理的な方法だということが分かります。