2015年9月26日

日本株は低コストなアクティブファンドにもチャンスあり

アクティブ運用とパッシブ運用、どちらが有利なのかという問題は、まるで神学論争のような側面があります。この問題に関して、モーニングスターに非常に面白い記事が掲載されました。

“アクティブVSパッシブ”新手法で検証、コストが明暗(モーニングスター)

米モーニングスターが新たな手法でアクティブファンドの相対パフォーマンスを検証した結果、やはりインデックス投資のようなパッシブ運用を上回るパフォーマンスを残すアクティブファンドが非常に少ないことが分かりました。ただ、それ以上に気になったのは、同じ手法で日本株のアクティブファンドを検証した結果と米国での結果に違いです。意外と日本のアクティブファンドは頑張っている。このあたりに日本の株式市場と運用業界の特殊性があるような気がしました。そのため、米国よりも日本の方がアクティブファンドにチャンスがあるということです。

今回、米モーニングスターが採用した分析手法は、ETF含むパッシブファンドの平均リターンに対して、どのくらいの数のアクティブファンドが上回ったかを「サクセスレート」という指標として数値化したものです。数値が高い方が、パッシブファンドの平均リターンに勝ったアクティブファンドの数が多いことになります。ベンチマークではなく、パッシブファンドの平均リターンとの比較なので実際のコスト負担の多寡も結果に反映されることになります。また、算出の分母に償還済みファンドも含めているので、運用が成功して存続したファンドだけが分析対象となり、アクティブファンドにとって好結果が出てしまうという「サバイバーシップバイアス」も排除されてます。

この手法を用いてモーニングスターが日本の「大型株・ブレンド」に分類されるアクティブファンドを分析したところ、3年、5年、10年リターンそれぞれでパッシブ運用の成績を上回ったアクティブファンドの割合は20~30%台しかありませんでした。さらに対象ファンドのうち、低コスト上位25%のアクティブファンドを「低コストファンドグループ」、高コスト上位25%のアクティブファンドを「高コストファンドグループ」と定義し、それぞれのグループ内でサクセスレートを算出すると、全ての期間で低コストファンドグループのサクセスレートが全体のサクセスレートを上回り、逆に高コストファンドグループのサクセスレートは全体のサクセスレートを下回っています。つまり、コストの差が明暗を分けた。そして「全体としてアクティブファンドは劣勢となったものの、低コストのアクティブファンドを選ぶことにより、パッシブファンドに勝つ可能性が高くなるということだ」という非常に明快な結果が出ています。

ここまでは「やはりアクティブ運用がパッシブ運用に勝ち続けるのは難度が高い」「アクティブ運用といえども、やはり低コストで長期運用されているファンドは、それなりに優秀」という常識的な結果が導き出されたわけですが、さらに注目したいのは、この分析結果の日米の差です。米国の分析結果では、サクセスレートは過去1年、3年、5年、10年がそれぞれ32.7%、35.6%、25.1%、21.6%となり、日本とほぼ同レベル。ところが低コストファンドグループを比べると、大きな差が生じています。米国の10年サクセスレコードが29.7%に対して日本は62%。つまり、米国に比べて日本の低コストアクティブファンドは、圧倒的に勝率が高い。これは何を意味しているのでしょうか。

ここからはあくまで私の想像です。米国の運用業界は、それこそ世界中の超一流のプロが集まり、しのぎを削って競争しているメジャーリーグみたいなものです。だから平均点が高くなる。一方、日本の運用業界は独立リーグみたいなもので、まともな運用すらされていないダメファンドが多く、それが平均点を引き下げているのでは。平均点70点のクラスで平均を上回り続けることは難しい。1度のミスで平均以下に沈んでしまいます(まさに「敗者のゲーム」)。しかし、平均点が50点のクラスなら、少しぐらいのミスをしても1回ヒットを打てば平均点以上を維持できるのかもしれません。それが、日本の方がアクティブファンドが勝ちやすくなっている要因のような気がします。だから日本の株式市場はアクティブファンドがパッシブ運用のリターンを上回るチャンスが非常に多いのかも。ただし、その前提条件は十分に低コストで、長期運用されていることでしょう。

こうしたことを考えると、アクティブ運用とパッシブ運用のどちらが優れているのかという問いかけが含む皮肉な側面も見えてきます。それは、優れたアクティブ運用が多いからこそ、なかなかパッシブ運用に勝てなくなるということ。逆にダメなアクティブ運用が多いと、一部の優れたアクティブ運用は容易にパッシブ運用に勝ってしまう。もしかしたら、米国と日本のアクティブ運用の実力の総和の差が、パッシブ運用に勝ちにくい米国のアクティブ運用と、パッシブ運用に意外と勝ってしまう日本のアクティブ運用という現象を引き起こしているのかもしれません。

すると、日本の問題はアクティブ運用とパッシブ運用のどちらが優れているのかというところにはないともいえる。逆に日本はもっと優秀なアクティブ運用が増えないといけない。それが市場全体の運用の平均を押し上げ、結果的にパッシブ運用のリターンを高めてくれます。だから、アクティブ運用に対して建設的な批判はしても、決して否定してはいけない。アクティブ運用があるからこそ、パッシブ運用が成り立つのですから。

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