2015年9月22日

金融サービスの“いいとこ取り”は許されなくなってきた

ネット専業銀行大手の住信SBIネット銀行が、新たに口座保有者を利用状況によってランク付けし、サービスを差別化する「スマートプログラム(仮称)」を2016年1月からスタートさせると発表しました。

「スマートプログラム(仮称)」の開始のお知らせ(住信SBIネット銀行)

住信SBIネット銀行は、SBI証券と連動したサービスが便利で、とくに証券口座と連動するハイブリッド預金は銀行・証券間の資金移動の手間が省け、金利も比較的高かったことから個人投資家の間で人気があります(私も口座を保有し、ハイブリッド預金を活用しています)。ところが新サービスでは、ライトユーザーにとっては非常なサービス改悪となることから、一部で不満も出ていました。こうした動きを見て改めて感じたのは、「金融サービスの“いいとこ取り”は許されなくなってきた」ということです。

新サービスの詳細は住信SBIネット銀行のサイトを確認してください。また、ブロガーのすぱいくさんが分かりやすくまとめてくれていますので、これも参考になります。

住信SBIネット銀行スマートプログラム(仮称)導入。ランク制度により一部利用者はサービス改悪【2016年1月導入】(1億円を貯めてみよう!chapter2)

簡単にまとめると預金残高が100万円未満で、外貨預金、仕組預金、カードローン、目的・不動産担保ローン、SBIハイブリッド預金、給与・賞与・年金いずれかの振込、純金積立、デビットカード1万円以上利用、SBIカード振替口座のいずれかで2つ以上のサービスを利用していない人は、最低ランクの「ランク1」となり、大幅なサービス低下となります。とくにATM手数料が引出利用で月2回しか無料にならないようでは、日常決済用の銀行としての役割をほとんど果たせません。

ようするに、住信SBIネット銀行に利益をもたらさないサービスしか利用していない顧客は、徹底的に冷遇するという姿勢が鮮明です。だから、最高ランクの「ランク4」となるためには、「外貨預金と仕組預金の月末残高合計が、500万円以上」か「外貨預金と仕組預金の月末残高合計が、300万円以上 かつ 住宅ローンを利用」という極めてハードルの高い条件が設定されています。ここまで露骨だと、かえって清々しいものがあります。

あまりにえげつないという批判もあるのですが、銀行からすれば仕方のない面もある。現在は世界的な金融緩和で資金がだぶついており、どの銀行も大変な運用難に陥っています。預かり資金の運用益が低迷している以上、手数料で稼ぐしかない。そうなると、銀行にたいして利益をもたらさないサービスしか利用しない顧客は、一種のフリーライダーとして排除したくなる。あるいは、個々のサービスできちんと手数料を取るというビジネススタイルになってしまうわけです。半面、銀行の利益に貢献する顧客には、さまざまな優遇を提供し、取引を深めていこうという考え方になる。太い客を大事にするというのは商売の基本ですから、仕方のない面もあるわけです。ちなみに海外の銀行では、小口預金者からは口座維持手数料を取るケースも多い。日本もだんだんと、そうなってきたのでしょう。

こうなってくると、我々のような庶民も金融機関の使い方を考えなければなりません。メインに使う金融機関を決めて、そことの取引実績を大きくし、優遇サービスを享受できるようにしなければなりません。いろいろな金融機関のいいとこ取りをして、コロコロと取引先を浮気するような使い方は、だんだんとメリットがなくなってくるのでしょう。このときに大事なのは、メインに使う金融機関が信頼に足るサービス体系を持っているかということです(その点では、意外とメガバンクはしっかりしています)。

では、住信SBIネット銀行はメイン銀行として使うための信頼に足るサービス体系を持っているかですが、新サービスの概要をひと目見ただけで失格です。そもそも「ランク4」になるために外貨預金と仕組預金の保有が必須という段階で話になりません。外貨預金と仕組預金というのは、銀行が扱う金融商品の中でもっとも詐欺的な商品です。こんな商品を保有しなければ最高ランクにしないというのでは、住信SBIネット銀行の志が低い。じつに残念です。

また、SBIレギュラーカードの振替口座にすれば無条件で1ランクアップの優遇が付与されますが、現在のSBIレギュラーカードはあまり魅力のないカードになっていますので、これも残念。せっかくSBIカードを完全子会社にしたのに、恐れていた悪い方向に働いています。

【関連記事】
住信SBIネット銀行がSBIカードを子会社化―既存契約者にも配慮した新たなサービスを期待したい

これならまだ、格安ゴールドカードであるSBIゴールドカードを保有して2ランクアップの優遇に浴した方がトータルでのメリットは大きいでしょう。2016年1月から発行が始まるデビットカードの内容は気になりますが、月1万円以上の利用という条件がケチ臭い。

そんなわけで、今回の住信SBIネット銀行の動きは、金融機関との付き合い方を改めて考えさせられる機会になりました。そして残念ながら、私にとって住信SBIネット銀行はSBI証券で取引するための待機資金の置き場所以上には使えないという印象です。

関連コンテンツ