2015年9月14日

厚労省が導入を検討する「リスク分担型確定給付年金(仮称)」はトンデモナイ詐欺的制度になる懸念がある

すでに何度か報道されていますが、厚生労働省が企業年金で既存の確定給付型(DB)と確定拠出型(DC)のほかに、新たに「リスク分担型確定給付年金(仮称)」の導入を検討しているそうです。

企業年金、新制度導入へ 労使でリスク分担 厚労省方針(朝日新聞デジタル)
新たな企業年金案提示 厚労省、年金部会に(日本経済新聞電子版)

まだ制度の詳細が不明なのでなんとも断定的なことは言えませんが、現在明らかにされている情報だけで判断すれば、この新制度は下手をするとトンデモナイ詐欺的制度になる懸念があります。最大の問題点は、リスク分担の構造が不公平だということです。

通常、企業年金は確定給付型(DB)なら企業が運用責任を持ち、予定利率を下回った場合は企業が不足分を負担します。一方、確定拠出型(DC)なら、労働者が運用責任を持ち、運用成績が悪ければ給付額の減少を受け入れることになります。つまり、どちらも運用責任を負う方がリスクも負担する形ですから、ある意味でフェア。どちらが優れているともいえません。

ところが検討中の新制度の場合、運用責任は企業が持ちますが、リスクは労働者と企業で分担するということなのですが、その分担の構造が問題です。運用成績が予定利率を下回った場合、企業は上乗せ拠出分を負担し、労働者は給付額の減額を受け入れるとのことですが、運用成績が予定利率を大幅に下回った場合、どうなるのか。企業は上乗せ拠出分だけを負担すればいい。しかし、労働者は残りの損失を無制限に引き受けなければなりません。つまり、損失の負担が企業は限定的であるのに対し、労働者は青天井です。

逆に運用成績は予定利率を上回った場合はどうなるか。労働者が受け取れる給付額は、予定利率の分に限定されるの対し、企業は上乗せ拠出した分を回収できます。つまり、労働者は予定利率以上の運用益を放棄させられるのに対し、企業は予定利率を上回った分を全額得ることができます。

こうした仕組みを見てみると、金融商品に詳しい人なら、すぐに思いつくのがいわゆる「仕組み債」と同じ構造だということです。このことはすでに投資ブロガーのゆうきさんが指摘しています。

新企業年金制度「リスク分担型確定給付年金(仮称)」は仕組み債の年金版では?(ホンネの資産運用セミナー)

私もまったく同感。仕組み債の年金版という言い方は的を得ています。もっと言うと、新制度は労働者が企業から一定額の上乗せ拠出金をプレミアムとして得る代わりに、一定以上の運用益を放棄し、損失が出たときは無制限に受け入れるというオプション取引の「売り」をしているようなものです。ゆうきさんも指摘するように、極めて不健全だといわざるを得ません。


9/17追記:予定利率を上回ると企業が上乗せ拠出分を回収できると書いていましたが、これは間違いでした。やはり、ゆうきさんのブログで教えてもらいました。

厚生労働省が検討中のリスク分担型DB(確定給付年金)における権限と責任の不一致(ホンネの資産運用セミナー)

それでも、企業と労働者がリスク分担するというときの分担のバランスが悪いことには違いはありません。運用に失敗した場合、企業の損失リスクは上乗せ拠出分に限定されますが、労働者の損失リスクは上乗せ拠出金を超えた部分に関して無制限となるからです。しかも、労働者は運用主体ではないわけですから、運用責任とリスク負担が分離しているのは大問題です。

厚生労働省は来年4月から導入を目指しているそうですが、拙速な対応は止めるべきでしょう。予定利率や拠出金の水準にもよりますが、極めて問題の多い制度となる可能性が高い。仕組み債なら買う・買わないは個人の自由であり、自己責任です。しかし企業年金の場合、基本的にその企業の労働者は加入を義務付けられます。だから、こんな制度では導入に対する同意を求められる労働組合も困ります。私も労働組合の委員長をしていますが、こんな制度では、下手をすると将来の訴訟リスクを負いかねない心配すらしてしまいます。それよりも既存のDB、DCの中身を改善していくべきなのです。

【補足】
企業年金は拠出金全額を企業が負担しているので、そもそも労働者はリスクを負っていないという指摘があるかもしれません。しかし、企業は社会保障費や福利厚生費をすべて含む形で総人件費を計上します。そして、総人件費こそが労働分配の実体を構成します。だから、企業年金といえども、掛金は企業が拠出した段階で労働者の資産であるということを忘れてはいけません。
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