2015年8月30日

現代はFXや株のデイトレーダーにとって「寒い時代だとは思わんか?」

8月もまもなく終わりです。個人投資家にとっても今月は久しぶりに気持ちが“ザワザワ”した月だったかもしれません。そんな中でも、コツコツと積立投資と長期投資が基本のインデックス投資家は、あまり動揺していないようです。一方、FXや株のデイトレーダーなど短期売買をする個人投資家にとっては大変な月だった。あまりに市場のボラティリティが激しすぎ、損害を被った個人投資家も多いとか。こうした異常な市場状況に対して豊島逸夫さんは、市場の構造が根本的変化してしまったからだと指摘しています。

株式市場の構造変化を映す歴史的乱高下(豊島逸夫の手帖)

いまや短期売買での鞘取りトレードの主役がコンピューター・プログラムによるアルゴリズム取引となり、高速度取引(HFT)業者によって(短期的な)市場価格が形成される構造になってしまいました。そんな相手に手持ちの家庭用PCやスマートフォン・タブレットだけで立ち向かおうというのですから、デイトレードをする個人投資家にとって現代は「寒い時代だと思わんか?」と言いたくなります。

(なお、HFT業者の実態をフラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たちがよく描いています。)




豊島さんも紹介しているように、8月24日の米国証券市場はひどい相場でした。私もたまたまリアルタイムで見ていたのですが、寄付早々にダウ平均が1,000ドル以上急落したかと思うと、すぐさま500ドル以上急騰し、その後も一時はプラス転換するところまで上げたかと思うと、またもや急落して最終的に588ドル安で引ける展開でした。正直、「なんだ?この相場は」と思いました。

為替相場はもっとひどかった。円ドル相場は1ドル120円台だったものが、いきなり116円台まで円高に振れました。とくだんの材料なしにです。おそらくこの瞬間、FXをやっている個人投資家のなかには強制ロスカットが発動して大きな損失を被った人がかなりいると思います。

いずれの場合もHET業者によるアルゴリズム取引が原因だとされています。HFT業者によるアルゴリズム取引が異常なボラティリティの要因となることはすでに多くの人が指摘しているのですが、もともと夏枯れ相場で市場参加者の少ない8月だったため、より影響が大きくなったのでしょう。ある個人投資家がSNSで「いまの市場の動きには、もはや手動では対応できない」とつぶやいていたのも印象的でした。

日本の証券市場でもHFTは一般的になっていて、証券会社もその影響を丁寧に個人投資家に説明してくれています。少し古いですが、以下のレポートが参考になるでしょう。

ウォール街を震撼させた「フラッシュ・ボーイズ」(「藤戸レポート」三菱UFJモルガン・スタンレー証券)

こうした状況を知ると、個人投資家がFXや株のデイトレードで儲けようと考えることがバカバカしくなります。何しろ相手は高性能な業務用コンピューターで取引所のシステム直結。個人投資家は家庭用PCしかない。売買注文を出すにしても、クリックするという身体的行為が必要なので、その時点でスピード勝負は負けが確定している。ファンダメンタルズ分析やチャート分析など既存のアプローチも苦しいでしょう。前提となる売買スピードがまったく異次元になっているからです。まさに、デイトレーダーにとっては「寒い時代だとは思わんか?」。

もちろん、そんな厳しい戦場でも戦果を上げる個人投資家はいて、海外メディアでも話題になっていました。

謎の36歳デイトレーダーの読み的中-市場パニックで利益40億円(ブルームバーグ)

でも、これを普通の人が真似しようとしてはいけません。これはいわばガンダムに乗ったアムロみたいなものですから。私のようなオールドタイプは、ガンダムに乗ったとしてもニュータイプにはなれませんし、実際に乗っているのは、ぜいぜいボールだったりしますので、戦線に出てもビグザムみたいなのに遭遇すると一瞬で狩られてしまうのがオチです。

では普通の個人投資家がHFTに勝つ方法はないのでしょうか。少なくとも株式投資ならあります。HFTは基本的に1日で売買を手仕舞う日計りシステムですから、どんなに短期的ボラティリティが高まっても、長期的には株価はあるべき価格に収斂するはずです。つまり、短期の値動きなどは無視して、じっくりと長期投資すれば問題ありません。また、HFTを含めたすべてのプレイヤーの成果の平均がインデックスですから、インデックス投資なら何もせずにHFTの成果の一部すらリターンの中に取り込めるのです。どんなに卑怯でも、やっぱりジャブローの穴倉に篭っているゴップ大将みたいな人が最終的に戦場の成果を総取りしてしまうというのは投資の世界でも当てはまりそうです。「悲しいけどこれ戦争なのよね」。

そんなわけで私のようなオールドタイプは、相場の歴史的乱高下も気にせず、あいかわらず積立投資と長期投資でゆったりと投資するのが最善という当たり前の結論になってしまいました。

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