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2015年7月28日
『藤野さん、「投資」ってなにが面白いんですか?』-投資技術論を超えた社会認識のレッスン
ひふみ投信の最高運用責任者である藤野英人さんの藤野さん、「投資」ってなにが面白いんですか?を読みました。軽い気持ちで読み始めたのですが、一読しておもわずウーンと唸る。なるほど、プロの投資家というのはこういったビジネスシミュレーションを常に繰り返しながら銘柄選択を実践しているのだということが非常によくわかりました。たんなる投資技術論を超えた社会認識がそこにはあります。こういう藤野さんの文化度の高さが、ひふみ投信の好成績を支えているのでしょう。ひふみ投信の異質さを浮き上がらせる1冊かもしれません。
本書で藤野さんは、「タケコプター」や「フエール銀行」「お医者さんカバン」などドラえもんに登場するひみつ道具が実際に開発されたら、世の中の社会経済構造がどのように変わるかを真面目にシミュレートしています。それが、とにかくうがちが細かい。実際に読んでもらった方がよくわかると思うので具体的な内容は紹介しませんが、例えばタケコプターが実用化されれば、どのような業界が伸び、どの業界が衰退するのかをじつに想像力豊かに描きます。
ただ、藤野さんのビジネスシミュレーションが見事なのは、単純に企業の成長・衰退だけでなく社会構造自体の変化、あるいはモラルや人権意識など人間の意識の編成の変化にまで想像力を及ぼしていることです。こうした認識が、本書を単なる投資技術論ではなく、一種の社会認識のためのレッスンにしている。そういう意味で文化度が高いのです。「投資家脳」を育てることが本書の目的と著者は書いていますが、投資家だけでなく日々の労働で自分の仕事の社会的意味が実感できなくなってきた疲れたサラリーマンにも役に立つ。こういった発想を投資だけでなくビジネスでも日常的に行うことができる人は、かなり“デキる”人でしょう。
そして、本書でもっとも重要なポイントは、ドラえもんの主題歌に出てくる「できたらいいな」という人間の要求を実現するのは四次元ポケットではなく、人間の「労働」であると看破していることです。労働に対する絶対的な信頼が、ひふみ投信の投資哲学の根本にあるということがよくわかりました。結局、長期投資というのは人間の労働の可能性に賭けることに他ならない。何かが生み出される背後には、多くの人が汗をかいているという現実がある。その現実に資金を提供することが投資だとすると、そこには虚飾めいた印象はなくなります。こういった発想で投資できれば、楽しいですね。欄外の書籍紹介も妥当ですし、コラムも秀逸。就職活動中の学生さんあたりが読めば、きっと就職することが楽しみになるでしょうし、世の中の仕組みと経済活動の前向きな意義に目を開かせてくれることでしょう。
私は最近、ひふみ投信を少しだけ買っているのですが、やっぱり大手運用会社が設定している普通のアクティブファンドとはまったく異なる。その理由の一部が分かりました。運用担当者の社会認識のレベルが違うのです。やっぱり、ちょっとおかしいファンドです。でも、そのおかしさは、なかなか好もしいおかしさに感じます。