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2015年7月18日
個別株の永久保有には家庭での実践的投資教育が欠かせない
個別株は“永久保有”を前提に投資していると何度か書いたところ、読者さんから質問をいただきました。要点をまとめると次のようなものです。
・自分が死んだ後に家族がポートフォリオの入れ替えなど個別株の管理ができるか?
・相続のことを考えれば、自動的にポートフォリオを管理してくれる投資信託やETFの方が良いのでは?
私はまだ独身で子供もいませんので、具体的に質問に答えることはできないのですが、もし結婚して子供ができれば、ぜひ実行したいと思っている家庭での実践的投資教育についての考えを披露したいと思います。
まず、ポートフォリオの管理を考慮すれば投資信託やETFの方が良いというのは、その通りです。また、流動性の面からも投資信託やETFの方が優れているということも無視できません。なぜかというと、資産を相続する際には相続税が課せられますが、その支払いのために資産の一部を換金する必要が出てくる可能性もあるからです。そこで個別株で構成した資産ポートフォリオを相続する場合、どの銘柄を売って現金化するのかという判断が必要ですが、これはかなり高度な知識を必要とします。その点、投資信託やETFなら必要な口数だけ現金化すればいいので簡単です。だから相続のことを考えれば、個別株よりも投資信託やETFの方が利便性が高いのは確実です。
ただ、個人的な意見ですが、私は自分に子供ができれば、その子には個別株を長期保有して管理できるぐらいの金融・投資リテラシーを持たせたい。株の永久保有ためには家庭での投資教育が欠かせないと考えています。この点に関して、もし結婚して子供ができれば実行したいと思っている実践的投資教育があります。それは、子供が生まれたときから、保有銘柄のなかでもっとも優良だと思う銘柄を1単位だけ、その子供の名義にすることです。
じつはこの方法は私自身が体験したものでした。私の祖父はかなりの長期投資上級者だったのですが、私を含めて5人の孫が生まれるたびに、保有していた関西電力の株(当時は代表的な優良銘柄でした)を1単位だけ孫の名義に変更しました。だから私は生まれたときから株式保有者となったわけです。
小学生高学年ぐらいになると毎年2回、私宛に関西電力から封書が届くことに気づきます。配当金の支払い通知でした。そうやって自分が株を保有していること、株を持っていると配当金がもらえるということを子供ながらに理解するわけです。しかも、自分が買った株ではありませんから、株価の変動は気になりません。そして二十歳を超えたころに、はじめて証券口座と配当振込先である銀行口座の管理も任されたのですが、20年間も配当をもらい続けていると、かなりの金額が銀行口座に貯まっていました。
こういう体験をすると、株というのは「売買」するものではなく、「保有」するものだという感覚が自然と身に付きます。なぜかというと、売買で儲ける経験よりも先に長期保有で儲けた体験をしてしまうからです。そのおかげで、いまだに株式投資についてはキャピタルゲインよりもインカムゲインに関心が向く性分が変わりません。株が値上がりしても、売って儲けようという気が起こらず、それよりも「この株を保有していれば、なにもしなくても毎年配当金がもらえる」ということに喜びを感じてしまうのです。
やはり投資を継続するためには、なんらかの成功体験が必要です。多くの人の場合、それは売買によるキャピタルゲインを得た経験のはず。でも、子供のときから名義だけでも株を所有させておけば、その子が成人して株の管理を任された時に、いきなり長期投資による成功を体験できます。それはその後の投資スタイルに大きな影響を及ぼすに違いありませんし、実際に私は大きな影響を受けました。
もうひとつは、家庭内で投資についてオープンに会話することでしょう。祖父は自分の子供(つまり私の父)が社会人になって、はじめてボーナスをもらったときに、とくにそのお金を使う用事がないなら「株でも買っておけ」とアドバイスし、銘柄選択の方法なども教えたそうです。また、私の母親は嫁入り道具として親から大阪ガスの株(これも典型的な資産株です)を少しだけ持たされて嫁いできたそうです。その株は現在でも彼女が保有していますが、さすがに約40年も長期保有すると評価額は10倍以上になっています。もちろん日本の高度成長とインフレが作用しているからですが、それでも配当収入を含めたトータルリターンではインフレ率を大きく上回る成績となっているはずです。そんな家庭ですから、わが家では私が子供のときから株はごく普通に存在するものでした。それこそ貯金がある程度貯まれば、その一部を株に換えておくことを自然に行っていたのです。しかも、子供も名義上とはいえ株を保有していますから、ごく自然と家庭で株式投資について会話が成立しました。そこで具体的に投資について学ぶことができたのです。こういう実践的な投資教育を私自身もぜひやってみたいと思います。
しかし、ここで注意しなければならないのが、株式投資は必ず余裕資金で行うべしという鉄則を子供の時から繰り返し聞かされたことです。信用取引も我が家では御法度でした。また、短期の売買も「手数料がもったいない。証券会社をもうけさせるだけ」と非難の対象です。とにかく長期投資しか認めない。その意味では、じつに偏狭な投資姿勢でもあります。祖父は親戚の間でも偏屈で有名な人物だったようですが、その偏屈さが投資姿勢にもよく表れていたわけです。しかし、一般庶民が株式投資をする場合、それぐらいの偏狭さでちょうどよいのではとも思っています。
いずれにしても子供に投資教育を行う場合、理屈を教えるだけでなく、実際に長期投資の経験をさせてしまうという方法は極めて実践的なのかもしれません。それをきっかけにまっとうな投資リテラシーを身に着けてもらえれば、自分が死んだ後の株の管理も安心して任せられるような気がします(独身・子供なしの私が言っても、なんの説得力もないかもしれないのですが)。