2015年6月1日

外国債券への投資は必要か?‐「長期的には」の意味を考える

インデックス投資家の間で意見が分かれるポイントに債券投資の位置付けがあります。とくに外国債券は金利平価説(金利が高い国の通貨は、その分長期的に通貨価値が下落する)に基づくと国内債券と長期的には収益率が同じに収斂するため、とくに投資する必要はないという考え方も多いようです。しかし、私は“外国債券投資必要派”の立場をとっており、さらに新興国債券も必要であるとの立場から自身の投資を実践しています。その理由は、以前に紹介しました。

新興国債券への投資は必要-ただし徹底した分散が必須

そして、もう少し踏み込んで金利平価説を認めた上でも、やはり外国債券への投資は必要だと考えています。

金利平価説に基づくと、高利回りの外国債券も長期的には為替レートの下落によって金利差が相殺され、期待リターンは国内債券と理論的に等しくなるということになります。そうすると、わざわざ高いコストを支払って外国債券に投資するのは損というのが外国債券投資不要派の考え方でしょう。私は、この考え方には一定の合理性があると考えます。とくに外国債券への投資は、為替コストなども含めて国内債券投資より不利な点が多い。

しかし、注意しなければなならないのは、金利平価説も完璧な理論ではないということ。金利平価説の前提として「完全資本移動(2国間を自由に資金が移動できる)」「内外資産完全代替(投資家はリスク中立的である)」という条件が仮定されており、果たして現実の国際金融がこの条件を満たしているのか疑問だからです(とくに新興国はいまだに資金移動の自由が制限されている国が多い)。

また、金利平価説を受け入れたとしても、やはり外国債券への投資が不要だとは思えません。その理由は「海外債券と国内債券の期待リターンは長期的には同じ」と言うときの「長期的」という言葉の意味をよく考える必要があると思うからです。

通常、会計学や経営学では「長期」とは「1年以上」を意味します。だから1年未満はすべて短期。債券も満期が1年未満のものは短期債券とされ、MMFなどはこれで運用されます。逆に償還期間が1年以上のものは長期ですから、例えば長期債券に投資する債券インデックスファンドのポートフォリオは、すべて満期までの残存期間1年以上の債券で構成されます。

ところが「長期」という言葉にはもうひとつ、マクロ経済学での意味があります。マクロ経済学で「長期」というのは、「価格メカニズムが働いている(需要と供給が均衡している)状態」を指します。だから、需要と供給が均衡に向かっている段階を「短期」、均衡した段階が「長期」です。これをふまえると、金利平価説の意味も見えてきます。現在は金利差と為替レートの差が均衡していない「短期」でも、いずれ均衡して「長期」の段階になるということです。

ところが問題は、いつ均衡するのかが分からないことです。あくまで「長期」とは先験的な仮定ですから、短期の繰り返しの先に、いずれ訪れるであろう仮定の段階としか言えないわけです。こうした長期均衡モデルを批判したのがケインズでした。ケインズは貨幣改革論で貨幣数量説を認めながらも、その効果が「長期」での働きであることに注意を促し、次のような有名な言葉を記しました。
この長期的観点は、現在の事がらについて誤謬を生じやすい。長期的にみると、われわれはみな死んでしまう。嵐の最中にあって、経済学者に言えることが、ただ、嵐が過ぎされば波はまた静まるであろう、ということだけならば、彼らの仕事は他愛もなく無用である。(引用は貨幣改革論 若き日の信条 (中公クラシックス)より)


これは「長期」は無限の彼方にあり、あるいは実態として存在しないという意味です。このケインズの「長期」に関する考え方に賛成します。投資もまた個人にとっては人生という限られた時間の中でしか行えません。長期投資も会計学的には実行可能でも、マクロ経済学的には一個人では実行不可能です(ただし、複数世代に渡れば可能。そこに世代を超えて資産形成する意味がある)。私が実行している「長期投資」も結局、マクロ経済学的には「短期投資」の継続でしかありえない。だとすると、あまりに「長期」の視点にこだわって、投資の方法を限定するのは賢いやり方ではないような気がします。まさにケインズが言うように「現在の事がらについて誤謬を生じやすい」のです。

こうしたことを考えると、金利平価説を認めたとしても、自分が投資している段階でそれが実現するのかどうかはわからない。それならより多くの国の債券、通貨に投資することでリスク分散効果を得たいというのが外国債券投資が必要だと私が判断する理由です。

もちろん、注意も必要です。金利差と為替レートが短期的には均衡しないからといって、それが投資家にとってプラスリターンとなる不均衡とは限らないからです。場合によっては金利差以上に為替レートが暴落する不均衡もあり得る。すると投資家にとってのリターンは大きなマイナスになります。ですから強調したいのは、債券投資と言えども決して単一国の債券に集中投資してはいけないということ。外国債券こそ、徹底した分散投資が必要なのです。

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