セゾン投信の中野晴啓会長CEOが退任することになりました。ただ、報道によると親会社であるクレディセゾンと路線対立があり、事実上の更迭とのことです。
セゾン投信創業者の中野会長CEOが6月末に退任へ、更迭との報道も(ブルームバーグ)
この報道に対してセゾン投信も正式にリリースを出し、中野会長の退任を認めています。
一部報道について(セゾン投信)
中野会長といえどもオーナーではありませんから、株主であるクレディセゾンと日本郵便の判断でいつかは退任することになるわけですが、どうも円満退任ではなさそうです。そして、中野さんを事実上更迭するというクレディセゾンの判断ぬよって、セゾン投信の大きな武器を失うことになるような気がします。
中野さんは、セゾン投信の創業者であり、証券会社や銀行を経由せず、積立を主力に投資信託を直販する方法でセゾン投信をここまで育ててきた立役者です。その間、受益者との濃密なコミュケーションを続けることで強いリレーションシップを築き上げ、ファンドの規模を大きくしてきました。
近年、インデックスファンドの信託報酬が劇的に低下する中、セゾン投信のファンドはいずれも信託報酬が相対的に割高になっています。それでも受益者の多くは積立を継続し、セゾン投信のファンドを保有し続けていました。その理由は、やはり運用会社と受益者の間に強い信頼関係があったからです。これはブログでも再三指摘してきました(セゾン投信の“強さ”の秘密)。こうした受益者との関係構築の先頭に立ってきたのが中野さんです。
また、中野さんは“積立王子”と呼ばれたように、セゾン投信の枠を超えて業界全体で積立投資の普及活動でも大きな足跡を残しています。例えば、コモンズ投信の渋澤健会長、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長と「草食投資隊」を結成し、全国行脚しながら積立投資の普及に向けた啓蒙活動を続けてきました。こうした活動がきっかけとなって、積立投資を始めた個人投資家は、かなりの数に上るはずです。かく言う私も2015年に奈良で開催された草食投資隊セミナーに参加し、中野さんとも初めてお会いしたことを覚えています(草食投資隊セミナーin奈良に参加しました)。
これだけ実績のある中野さんをクレディセゾンは事実上更迭するというのですから、なんとも思い切ったものです。報道によると「顧客本位で堅実な積み立てを目指す中野氏に対し、親会社クレディセゾンとの路線対立があった」とのことですが、ますます首をかしげました。
というのも、2024年から新NISAがスタートし、積立投資を主体とした恒久的な優遇税制口座が登場します。これがなにを意味するのかと言うと、少なくとも投資信託の販売は新NISAでの積立が主戦場になる可能性が高いということです。そういったタイミングで“積立王子”を更迭してしまうというのは、あまりにもやり方が稚拙。もう少し円満にことを進めることができたのでは。なにより受益者の心証を害しており、それはセゾン投信の最大の強みである受益者との信頼関係を毀損しかねません。それこそクレディセゾンとセゾン投信は、今後の販売戦略上も大きな武器を失ってしまうのではないかと感じました。
いずれにしてもセゾン投信は大きな曲がり角に直面しました。今回のクレディセゾンの判断がどういった結果をもたらすのか注視したいと思います。同時に、退任する中野さんには「お疲れさまでした」と声をかけたい。また、まだ60歳と若いのですから、まだまだ別の場所で活躍されることを期待したいと思います。