年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2021年度(21年4月~22年3月)の運用実績が発表されました。期間収益率は+5.42%、評価上の収益額は10兆925億円となりました。これにより運用資産総額は196兆5926億円となり、過去最高を更新しています。詳細は業務概況書で確認できます。
「2021年度業務概況書」(GPIF)
2021年度は第4四半期(22年1~3月)に入るとロシアによるウクライナ侵攻や世界的インフレ高進による各国中央銀行による利上げなど運用上のリスク要因が急速に高まった年でした。こうしたなか、GPIFは株価指数先物も活用した機動的なリバランスで基本資産構成配分を維持することでリスク管理を強化した運用を心掛けています。具体的には米国の利上げを見越して為替ヘッジ付き米国債券を削減しました。
また、決済リスクの高い証券をベンチマークから除外しており、例えば世界国債インデックス(WGBI)に段階的に組み入れられる予定となった人民元建て中国国債について、国際決済制度が利用できないなどの理由からベンチマークをFTSE世界国債インデックス(除く日本、中国、ヘッジなし・円ベース)に変更し、投資を見送っています。その他、ロシア関連資産も新規投資は停止し、既保有資産は適切な時機での売却する方針です。ちなみにロシア関連資産の評価額は20年度末に約2200億円ありましたが、21年度は会計上ゼロ評価とする保守的な運用を行っています。
こうした運用の結果、資産別収益率を見ると国内債券が-0.99%となるも外国債券が+2.29%となり、外国株式は+18.48%、国内株式も+2.12%と上昇しています。ロシア関連資産のゼロ評価もほとんど影響がなく、外国株式が収益を牽引しています。外国債券や外国株式は第4四半期に大きく下落しているのですが、円安によって下げが一部相殺されました。ロシア関連資産の問題と併せて、やはり国際分散投資の強みを発揮していると言えるでしょう。
もうひとつ注目は、インカムゲイン(利子・配当収入)が3兆1938億円もあるということです。日本の公的年金制度は賦課方式ですから、保険料収入が年金給付の原資に充てられ、不足分をGPIFの資金から補充する仕組みです。つまりGPIFの資金は年金特別会計の調整資金です。そして21年度のGPIFから年金特別会計への納付は寄託金の償還も合わせて7700億円でしたから、インカムゲインだけで賄えました。21年度も元本をまったく取り崩す必要がなかったということです。このようにGPIFの運用によって年金制度の持続性が高まるわけです。
ちなみに「GPIFが儲かっているのに、なぜ現在の年金支給額が増えないのだ」という批判がありますが、これはGPIFの役割を理解していない発言です。GPIFの資産は、現在の年金受給者の資産ではなく、50年~100年後の年金受給者のための資産です。少子高齢化が進む日本の人口構成では、50年~100年後には年金給付の原資として保険料収入だけでは大幅に不足することが予想されます。その際に、保険料の大幅引き上げや給付額の大幅引き下げをしなくても年金制度を維持できるように、現在の余剰金を増やしているのがGPIFの運用です。
いわば、GPIFの資産は、現在の年金受給世代や現役世代のための資産ではなく、現役世代の子供や年金受給世代の孫のための資産なのです。私は昨年、娘が生まれたのですが、GPIFの運用は、まさに娘のための運用です。そう考えると、娘の将来のためにGPIFにはますます頑張って欲しいと思うようになりました。
こうしたこともGPIFの「業務概況書」を読むとよく分かります。あいかわらず日本の公的年金制度に対して誤った解釈を吹聴するメディアや自称“専門家”が存在しますが、それらの言説のせいで公的年金制度に対して不安を感じる人は、ぜひ「業務概況書」を読んで欲しい。いろいろと納得も得心もできる部分があるはずです。