先週から話題になっていました、TKOの木本武宏さんが投資トラブルを起こし、松竹芸能を退社することになりました。
トラブルの全貌が不明なのでなんとも言えませんが、やはり無理な投資がいらぬトラブルを招いてしまったということでしょう。こういう報道を見るといつも思うのが、「間違った投資は金銭的損失だけでなく人的資本を毀損する」ということです。
報道によると、木本さんは知人の「投資家」に自分の資金をFXや仮想通貨で運用させていたとか。その上、芸人仲間からも資金を集め、その「投資家」に管理運用させていたそうです。ところが、その「投資家」と一時音信不通となり、預けた資金が戻ってこない事態となり、今回の騒動が起こりました。しかも集めた金額が7億円というから驚きです。
木本さんは何を間違えたのでしょうか。やはり知人の「投資家」を安易に信用してお金を預けたことです。法律上、他人のお金を預かって管理運用したり、金融商品を販売や投資助言するためには金融庁に金融商品取引業者として登録しなければなりません。無登録の業者は、ほぼ詐欺だと考えていいでしょう。はたして木本さんは知人の「投資家」が金融庁に登録しているか確認したのでしょうか。
もうひとつは、芸人仲間などからお金を集めたことです。投資というのは基本的に自己責任原則が貫徹される世界なので、軽々に他人に勧めるべきではありません。これは個別株や投資信託といったベーシックな投資ですらそうなのですから、ましてや木本さんが勧めるようなオルタナティブな投資ではなおさらです。よほど慎重にやらないと、ほぼ間違いなく大きな事件になります。
結局、今回の事件の責任をとって木本さんは出演する番組をすべて降板し、所属していた松竹芸能からも退社することになります。また、芸人仲間から集めた資金は「一生かけて返金したい」と言っているようです。でも、松竹芸能を退社して事実上の芸能界引退状態となったわけですから、どうやって返金するお金を作るのでしょうか。先行きはかなり厳しいと言わざるを得ません。
こうしたニュースを見て改めて感じるのは、「間違った投資は金銭的損失だけでなく人的資本を毀損する」ということです。木本さんは大きな金銭的損失を被ったようですが、それよりもダメージが大きいのは信用を失ったことで仕事もなくなるという、いわば人的資本が徹底的に毀損されたことでしょう。金銭的な損失は一時的なものであり“たかだか金の問題”と割り切ることもできるのですが、人的資本の毀損はそうはいきません。生涯にわたって大きな打撃となります。
これはなにも芸能人などに限ったことではなく、一般庶民でもよくあることです。例えば私の実家の近所に個人が営む小さな寿司屋がありました。私の両親とはご近所付き合いもあり、法事などの時にはよく出前も頼んでいました。ところがある日、なんの前触れもなく閉店してしまいます。しばらくすると寿司屋だった建物と土地は別人の手に渡り、居酒屋になりました。そして、寿司屋の大将が株の信用取引で失敗し、追証を払うために店を手放したのだということが町内の誰もが知るところとなります。リスク許容度を超えた過剰レバレッジ投資で失敗したわけです。この場合も金銭的損失だけでなく、本業だった店舗まで失ったわけで、それによる人的資本の毀損が甚大です。
よく投資の大原則として「理解できないものに投資してはいけない」「リスク許容度を超えた投資をしてはいけない」と言われます。それは金銭的な損失が怖いからではありません。金銭的な損失などは、しょせんは金の問題にすぎません。それよりも、間違った投資が原因で社会的信用を失ったり、仕事など日々の生活の糧を失うといった人的資本の毀損が怖いのです。今回のニュースを見て、そういった投資の厳しい現実を改めて思い知らされます。個人投資家の全員が他山の石とすべきでしょう。
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