2021年10月4日

インフレ時代の足音―資産形成もインフレに「慣れなければならない」

 

元スイス中央銀行総裁で現在はブラックロックの副会長を務めるフィリップ・ヒルデブラント氏がブルームバーグテレビジョンに出演し、「過去20年とは全く違った時代に入ろうとしていると確信している。インフレ率は今後、これまでよりも高い水準に落ち着くだろう」と発言しました。


これは非常に注目すべき意見だと思う。確かにインフレ時代の足音が聞こえているように感じるからです。

ヒルデブラント氏は、新型コロナウイルス禍が徐々に収束して世界経済が正常化に向かう中、今後1年から1年半はインフレ率が高水準となる可能性があると指摘しています。確かに現在、様々な場面でインフレ率上昇の気配が強まっているので、傾聴に値する意見です。

なぜそう思ったのかというと、私の実感とも一致しているからです。じつは私は本業の方で、ある商品作物市場のアナリストのような仕事もしているのですが、ここにきて価格が急騰し、歴史的な高値を付けるようになりました。背景にあるのが需給バランスのタイト化です。

新型コロナ禍によって経済活動が一時的にストップし、多くの商品の生産が減少しました。ただ、同時に需要も大幅に減少したため、結果的に需給バランスが保たれていた面があります。ところがここにきて世界的な経済再開によって需要が急速に回復する一方、これに供給が追いついてないケースが増えています。

なぜなら、新型コロナ禍による需要減退というのはロックダウンや行動制限などによって人為的にもたららされたものですから、制限が解除されれば急速に回復します。ところが、供給というのはそんなに急速には回復させることはできません。例えば農作物の場合、需要回復を受けて種を播いても、収穫できるのは翌シーズンです。

こうしたことを考えると今後、インフレ率が上昇する可能性はかなり高いと思う。そして問題は、その上昇が一時的なものなのかということです。各国の中央銀行はいずれもインフレ率の上昇は一時的なものだと見ていますが、これに対するヒルデブラント氏の指摘が非常に示唆に富みます。
一時的か持続的かというのは間違った問い方だと思う。両方だと思うからだ。重要な点は、インフレはより高い水準で落ち着くという見通しであり、市場はそれに慣れなければならないということだ
確かに供給力も回復すれば、インフレ率の上昇もいずれ落ち着くでしょう。その意味ではインフレ率上昇は「一時的」です。しかし、落ち着いた先のインフレ率が現在の水準を上回っている可能性を無視できません。その点で、やはりインフレ時代の足音が近づいているのかもしれません。

ブラックロック副会長の指摘は、個人投資家にとっても無視できないものがあります。資産形成もまた、インフレを前提とした戦略に基づいて行わなければならないからです。そもそも投資や資産形成というのは「インフレ対策」を前提として行うものです。ところが低インフレ時代が長らく続いたことで、この基本が案外と軽視されているように思う。デフレが続いた日本は、とくにそうでしょう。

だからこそ、過去20年とはまったくまったく違った時代に入る中、個人投資家もそれに「慣れなければならない」ということです。

関連コンテンツ