2021年6月27日

「SEIKO SKX」“ボーイ”シリーズは“本物のダイバーズウォッチ”の歴史的名機
















日本を代表する時計ブランドといえば「SEIKO」ですが、とくに海外で評価が高いのがダイバーズウォッチです。そのSEIKOダイバーズで私が愛用している1本が「SEIKO SKX」、通称“ボーイ”シリーズです。低価格でありながら高性能という圧倒的なコストパフォーマンスを誇る“本物のダイバーズウォッチ”の歴史的名作です。

SEIKOのダイバーズウォッチは、日本以上に海外で人気があり、海外の愛好家の間ではシリーズごとに「ツナ缶」「スモウ」「サムライ」「タートル」「モンスター」など独特の愛称で親しまれています。「SKX」シリーズは「SEIKO5」などと同様に海外でだけで販売が継続され、もっとも低価格だったことから「ボーイ」(末っ子というニュアンス)と呼ばれました。文字盤の色が黒、ネイビー、オレンジの3種類あることから、それぞれ「ブラックボーイ」「ネイビーボーイ」「オレンジボーイ」と呼ばれます。

これが海外の時計愛好家の間で非常に人気が高く、それこそロレックスなど高級ブランドの腕時計を何本も所有しているような人もボーイは持っていて、普段使いで付けていたりします。なぜ海外で人気があるのかと言うと、日本円で2万円前後という低価格でありながら、“本物のダイバーズウォッチ”であり、無駄をそぎ落とした仕様が独特の満足感をもたらしてくれるからでしょう。

ここで“本物のダイバーズウォッチ”と書きましたが、これには少し説明が必要です。ダイバーズウォッチは人命に関わる機器のため、性能に関してISOとJISで規格が定められています。ですからISO/JIS規格による性能試験をクリアした腕時計以外は正式に“ダイバーズウォッチ”を名乗ることができません。よく見かける防水性能や回転式ベゼルがあるだけの腕時計の多くは“ダイバーズ風ウォッチ”です。これに対して「SEIKO SKX」は、ISO規格をクリアした“本物のダイバーズウォッチ”なのです。文字盤に記載された「DIVER'S 200m」の文字はファッションではありません。

しかも、200メートル防水にねじ込み式竜頭、逆回転防止ベゼルというダイバーズウォッチとしては最低限の機能にもかかわらず、その完成度が非常に高い。例えば逆回転防止ベゼルは120クリック仕様。これぐらいの価格帯の腕時計の場合、60クリック仕様が多いことを考えると、極めて高い性能です。また、ステンレスケースはSEIKOらしい丁寧な造形で、これもとても2万円前後の時計に見えません。なにより気に入っているのが、極厚ミネラルガラスをはめ込んだ文字盤です。文字盤に奥行が生まれ、素晴らしい高級感を生み出しています。

搭載するムーブメントは「SEIKO5」で実績豊富な「7S26」。秒針ハック機能や手巻き機能はありませんが、その分だけ部品数が少なくなり故障や誤作動のリスクを抑えることができるわけで、やはりダイバーズウォッチとして必要な耐久性、信頼性につながっています。7S26の特徴であるマジックレバー方式による自動巻き上げも圧倒的な効率を誇ります。

ここまで書けば、「SEIKO SKX」"ボーイ"シリーズの人気の理由が分かるでしょう。低価格でありながら、ダイバーズウォッチの本質的魅力を余すところなく体験できるからにほかなりません。このあたりの機微については、海外の時計ジャーナリストの愛情あふれるレビューを紹介しておきます。


例えるなら、ロレックスのサブマリーナなど高級ブランドのダイバーズウォッチがポルシェ911なら、SEIKO"ボーイ"はフォルクスワーゲン・ビートルなのです。値段も性能も全く違うけど、ポルシェ博士が目指したRRと空冷水平対向エンジンの組み合わせというアイデアは共通している。だから、ポルシェ911の満足度はマックスですが、フォルクスワーゲン・ビートルだって別の意味で満足度マックスになる。なので好きな人は両方を持っていたりする。つまり、そういうことです。

ちなみに私が持っているのは「SKX009K」“ネイビーボーイ”。ボーイシリーズは品番の数字の後の文字が「J」と「K」の2種類あり、Jは日本組み立て品、Kは海外組み立て品です。このためJの方が人気が高い。ただ、Jはウレタンバンドのみのラインナップですが、Kはウレタンバンドとステンレス製のジュビリーブレスの両方があります。このジュビリーブレスは評価が二極化していて、チープだという声もあるのですが個人的には非常に気に入っています。たしかにステンレス板巻ブレスなので安っぽいのですが、腕への密着感が高く付け心地が良い。SEIKOの腕時計は総じて金属ブレスの付け心地の良さに欠ける傾向があるだけに、なおさらSKXのジュビリーブレスの付け心地の良さが目立ちます。

さて、今回あらためて「SEIKO SKX」シリーズを紹介したのには理由があります。これまで海外で販売が続けられてきましたが、どうやらディスコン(廃番)になるようなのです。というのもセイコーは「SEIKO5スポーツ」をリブランディングして国内販売を再開しているのですが、そこにSKXとまったく同じデザインの商品が用意されました。ただ、これはISO規格をクリアしてない“ダイバーズ風ウォッチ”です。どうもセイコーはSKXを廃番にして、新「SEIKO5スポーツ」で互換しようとしているように思えます。

これにはダイバーズウォッチという商品を取り巻く環境が大きく変化していることが背景にあるのでしょう。いまや低価格なダイバーズウォッチというカテゴリーが成り立たなくなっているわけです。ただ、SKXを新SEIKO5スポーツで互換するというのは、ある意味では下位互換になるわけですから、機械式ダイバーズウォッチ愛好家にとってはショックです。このためSKXの流通在庫品を今のうちに手に入れようと考えるファンが増えているようで、価格が急騰してきました。以前はAmazonなどで2万円前後で購入できたのですが、現在は3万~4万円台となっています。

たしかに最新のダイバーズウォッチと比較すればSKXは時代遅れの旧型ダイバーズウォッチにすぎないと言えます。ただ、まさに“世界を制したSEIKOダイバーズ”の本質をもっとピュアな形で体験できる1本でもあります。そういった歴史的名機を自分のコレクションの加えておきたいというのは、腕時計ファンとして自然な感覚でしょう。いずれ市場から姿を消すことになっても、その輝きは一段と増すのだと思います。

【ご参考】
「SEIKO SKX」シリーズは、現在もかろうじてネット販売などで手に入れることができます。関心のある人はYahoo!ショッピングやAmazonで探してみるといいでしょう。いくつかAmazonリンクを張っておきます(ただし、価格は日々変動しているの注意)。




 

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