2021年5月10日

インフレを考慮しない資産形成・運用は狂気の沙汰

 

株式価格の上昇で、“コロナ・バブル”の声さえ出ているわけですが、この株価上昇の根拠のひとつにインフレ論があります。各国の中央銀行が空前の金融緩和を実施し、貨幣価値が下落(=インフレ)したことよって、株価の上昇も正当化されるわけです。はたして本当に世界は今後、インフレへと向かうのでしょうか。ウォール・ストリート・ジャーナルに面白いコラムが載っていまた。

インフレ時代への大転換、5つの予兆(ウォール・ストリート・ジャーナル)

現在は、こういった視点を絶対に無視してはいけないと思うのです。

WSJの記事は、①各国中央銀行がインフレをそれほど懸念していない②財政支出が拡大の方向に政治が転換した③グローバリゼーションのペースが鈍化する④グローバリゼーションのペースが鈍化することで労働コストが上昇する⑤格差問題の深刻化によって労働規制が強化される――という5つのポイントを指摘し、いずれもインフレ時代の予兆かもしれないと指摘しています。

日本人は長らくデフレに苦しめられているので、インフレ懸念に関してピンとこないかもしれません。しかし、コロナ・ショック以降の市場の動きを見ていると、あながち警戒しすぎという感じはありません。

じつは私は、ある商品作物相場のアナリストのような仕事もしているのですが、ここにきて明らかに価格レンジが上方にシフトしたと感じることが増えました。投機筋の資金が流入しているという面もあるのですが、同時に生産コストが明らかに上昇していることも見逃せません。

こうしたことを考えると、やはりインフレ時代への備えは不可欠になったのではないでしょうか。とくに資産運用においてこれは当てはまります。WSJのコラム子も次のように指摘しています。
もしわれわれが転換点にあるとすれば、間違えた場合の代償は大きい。米10年物国債を利回り1.6%で購入している人は、インフレ上昇でひどい損失を被るだろう。一定期間にわたってFRB目標の2%を達成することでさえ、購買力の喪失を意味する。インフレ率が1990年代の平均3%に上昇すれば、とてつもない苦痛だろう。そしてもし、その3%が1980年代の平均5%超に変貌するとの恐怖心が広がれば、米国債は大暴落するだろう。
では、どうするべきか。やはり資産運用の基本に立ち返ることしかなさそうです。インフレに耐性を持つ資産カテゴリーをきちんとポートフォリオに組み込んでおくことしかありえません。すなわち株式です。そう考えれば、現在のように実体経済を上回る株価上昇という現象は、すでに「インフレ時代」に向けた準備を進めている投資家が多いからかもしれません。将来のインフレを考慮すれば、現在の株価も十分に正当化化される可能性があるからです。

もちろん、実際にインフレ時代が到来するかどうかは、誰にもわかりません。だからWSJのコラム子は「インフレ率が容赦なく上昇に向かっているとの考えに全力投球するのは早計だ」と指摘します。しかし同時に「インフレを主要リスクとして考慮しないポートフォリオを組むのは、狂気の沙汰だ」とも記しています。

そもそも資産形成・運用というのは将来のインフレリスクに備えるものです。そういった当たり前の認識が、ますます重要になる時代が来るのかもしれません。インフレを考慮しない資産形成・運用は狂気の沙汰ということです。

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