2020年11月20日

iDeCoのメリットは「節税」ではなく「課税繰り延べ」―2020年11月の個人型確定拠出年金(iDeCo)積立と運用成績

 

早いもので11月となり、2020年も終盤です。今年は新型コロナウイルス禍で大変な年となっていますが、なぜか株価だけは回復し、“コロナ・ショック”の暴落も遠い昔のような気がするのですから不思議なものです。そんな中、11月もいつも通り個人型確定拠出年金(iDeCo)の買付が約定しました(10月拠出分)。評価額もすっかり回復しています。ところで老後資金作りの有力なツールであるiDeCoですが、そのメリットとして節税効果を強調する人がいます。これは完全に間違いではないのですが、ちょっと誤解を招く表現でもあります。正確には「課税繰り延べ効果」というべきでしょう。そして、課税繰り延べには素晴らしいメリットがあります。それを理解すれば、やはりiDeCoは資産形成に極めて有利な制度であることも納得できると思います。

SBI証券のiDeCoオリジナルプランで買付けたファンド・商品は以下の通りです(カッコ内は信託報酬)。いつも通りのポートフォリオとなっています。

【個人型確定拠出年金(SBI証券iDeCoオリジナルプラン)】
「三井住友・DCつみたてNISA・日本株式インデックスファンド」(0.16%)
「DCニッセイ外国株式インデックス」(0.189%)
「EXE-i新興国株式ファンド」(0.23%+投資対象ETF信託報酬0.1095%程度)
「EXE-iグローバル中小型株式ファンド」(0.23%+投資対象ETF信託報酬0.075%程度)
「野村外国債券インデックスファンド(確定拠出年金向け)」(0.14%)
「三菱UFJ DC新興国債券インデックスファンド」(0.34%)
「三井住友・DC外国リートインデックスファンド」(0.27%以内)
「あおぞらDC定期」

累積損益率は11月18日段階で+20.1%となり、評価額も過去最高額を更新しました。少なくともiDeCo口座だけを見ると、“コロナ・ショック”は過去の出来事となっているわけです。皮肉な話ですが、途中解約できないという制度上の制限が、暴落時に狼狽して安値で売ってしまうという軽挙を防いでくれるのでした。

さて、そんなiDeCoのメリットとしてよく指摘されるのが、拠出金全額が所得控除されることによる節税効果です。これは非常に大きなメリットなのですが、勘違いしてはいけないのは、なにも税金がまるまる安くなるということではないということです。

というのも、iDeCoの掛金は拠出時に全額が所得控除されますが、その代わりに受給時は元本を含めた全額が課税対象となります。これは利益のみに課税される通常の金融所得との大きな違いです。ようするにiDeCoの掛金が所得控除されるというのは、その分の税金を後で払うということです。これを正確には「課税繰り延べ」と言います。

もちろん、現在の制度では一時金で受給すれば退職所得控除、年金で受給すれば公的年金等控除が適用されるので、実際はかなりの節税となります(ただし、高額の退職金や年金を受給する人は控除枠を超えた部分に課税されるので節税効果は低下する)。これは言い換えると、今後もし受給時の所得控除が縮小されれば、iDeCoも単純な節税効果は大幅に減少することを意味します。だからiDeCoには将来の税制変更リスクがあるという指摘も生まれるわけです。

しかし、よくよく考えれば、これもデメリットとまでは言えない。なぜなら、たとえ受給時の控除がすべて廃止されたとしても、それは本来は拠出時に払うはずだった税金を受給時に払うだけの話であり、税制としてはあくまで中立だからです。もちろん、長期間にわたって資金の流動性が失われるという点をデメリットと捉えることもできますが、それ以上に税金を後で払うということには利点があります。それが「課税繰り延べ効果」です。

なぜ「課税繰り延べ」にはメリットがあるのか。ひとつは拠出時のキャッシュフローを有利にしてくれるからです。例えば毎月2万3000円を通常の課税口座で積立投資した場合、まず収入から税金と社会保険料を支払った上で2万3000円を投資に回すことになります。一方、iDeCoで毎月2万3000円を拠出した場合、所得税+地方税が15%として3450円の納税が繰り延べされるので、その分だけ手元に残るお金が増え、キャッシュフローが改善するわけです。これは無視できないメリットです。

もうひとつは、拠出時に支払う税金と受給時に支払う税金は金額が同じでも「実質価値」が異なるということです。30歳の時に拠出した掛金2万3000円への課税を60歳の受給時まで繰り延べした場合、30年後に3450円を支払うわけですが、この3450円が30年前と同じ“実質価値”を持つでしょうか。資本主義は緩やかなインフレを前提とした生産様式ですから、当然ながら30年後の3450円の方が実質価値は低くなっている考えるのが自然でしょう。すると、税金は後で払った方が実質価値の上では得をすることになります。ここに課税繰り延べの最大のメリットがあるのです。

もちろん、デフレが続いた場合は現在よりも30年後の3450円の方が実質価値は高くなるでしょうから、その場合は損をします。しかし、そもそも今後もデフレが続くと考えるなら、iDeCoの活用以前にリスク資産による資産形成そのものを止めた方がいい。ひたすら現金を貯めることが最強の一手となります。それはそれで立派な判断です。ただ、基本的に資産形成というのはインフレ対策が原則だということを指摘しておきます。

こうしたことを理解すると、iDeCoのメリットというのは、正しくは「課税繰り延べ効果」と呼ぶべきものだということが分かります。そして、課税繰り延べのメリットというのは極めて大きいものです。これは少しでも企業経営について知っている人なら納得できるでしょう。実際に多くの企業が様々な方法で課税繰り延べをやっています。そして、個人で実践可能な数少ない課税繰り延べの手段がiDeCoです。これだけをもってしても、iDeCoには十分にメリットがあると思います。

iDeCoの加入対象者が拡大されて以降、多くの金融機関が熱心にiDeCo加入を勧めています。また、個人レベルでもiDeCoを推奨する人が増えました。しかし、あまりにメリットを強調したいがために、単純に「節税」という言葉を濫用することには、ある種のミスリードを誘う危険性があります。それよりも堂々と課税繰り延べのメリットを説明して欲しいと思います。同時に、既にiDeCoに入っている人や加入を検討している人も課税繰り延べのメリットを理解するべきでしょう。そうすれば、さらに納得も得心もして拠出を続けることができるからです。

【ご参考】
iDeCoに加入する場合、金融機関によって手数料や商品ラインアップが異なることに注意が必要です。現在、iDeCoプランの選択肢としてお薦めなのは運営管理手数料が無条件無料で低コストインデックスファンドをそろえるSBI証券セレクトプラン、楽天証券、マネックス証券、松井証券、イオン銀行です。iDeCoへの加入を検討している人は、これら金融機関のプランを研究することをお勧めします。いずれもネットから無料で資料請求できます。⇒SBI証券確定拠出年金プラン楽天証券確定拠出年金プランマネックス証券確定拠出年金プラン松井証券確定拠出年金プランイオン銀行確定拠出年金プラン

iDeCoは公的年金を補完する制度ですから、これを活用する前提として日本の公的年金制度について勉強することを強くお勧めします。この点に関しては、権丈善一先生の『ちょっと気になる社会保障』が最良にして必読の入門書です。このほど、三訂版『ちょっと気になる社会保障 V3』が刊行されました。また、iDeCoも含めて現在の公的年金制度を徹底的に利用するための戦略書として田村正之さんの『人生100年時代の年金戦略』が非常に網羅的にまとめられていてお勧めです。家計管理から貯蓄・投資、公的年金やiDeCo・つみたてNISA活用までトータルに解説している竹川美奈子さんの『50歳から始める! 老後のお金の不安がなくなる本』も老後資金について“自分ごと”として考えるための方法論を丁寧かつ詳細に論じた優れた入門書です。



iDeCoは制度がやや複雑なので加入を検討する場合は解説書を読んで研究することもお勧めします。解説書としては大江英樹さんの『はじめての確定拠出年金投資』山崎元さんの『確定拠出年金の教科書』『シンプルにわかる確定拠出年金』竹川美奈子さんの『一番やさしい!  一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』田村正之さんの『はじめての確定拠出年金』大江加代さんの『図解 知識ゼロからはじめるiDeCo(個人型確定拠出年金)の入門書』を挙げておきます。





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