2020年5月11日

GPIFの運用成績、“コロナ・ショック”でも株式比率引き上げ後の資産配分に優位性



2020年1~3月は“コロナ・ショック”もあって世界的に株価が暴落しました。このため年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用も1~3月だけで8兆円程度の損失となったそうです。まもなく2019年度第4四半期(20年1~3月)の運用成績が発表されるでしょうから、またまたメディアでは大きく取り上げられるでしょう。きっと「株式の比率を引き上げたのが失敗だった」「従来の国内債券中心の運用をしていれば、こんなに損をすることはなかった」といった批判が寄せられるはずです。ところが実際は、GPIFがポートフォリオの株式の比率を引き上げた2014年10月から2020年3月までのトータルリターンを比較すると、“コロナ・ショック”による暴落を含めても株式比率引き上げ後の資産配分の方が勝っているのです。

GPIFの運用に関して興味深い試算をニッセイ基礎研究所が発表しています。

GPIFの運用を考える(ニッセイ基礎研究所)

記事にもあるようにGPIGは2014年10月末に従来は資産全体の24%だった株式比率(国内株式と外国株式に12%ずつ)を、ほぼ倍増の50%(国内外の株式に25%ずつ)に変更しました。そこでもし2014年に株式の割合を増やさなかったら、どのような収益結果になっていたかを試算した上で、現在の資産配分と比較しています。
2014年10月末を100とすると、変更前(株式の割合が24%の場合)は2020年3月末時点で111.3であるのに対して、変更後(株式50%)は113.3と2ポイントほど高い。変更当時(14年9月末)の運用資産総額(約130兆円)をベースに考えれば約2.6兆円のプラス効果だ。
世界的に株価は4月にかなり戻していますから、現在はこの差はもっと広がっていることでしょう。たしかに株式比率50%の資産配分の方が短期的なボラティリティは高くなっていますが、約5年半というタームで見ると明らかに国内債券中心の資産配分よりも運用成果が出ています。まさに「コロナ・ショックを踏まえても株式を増やしたことによる資産価値への弊害は認められない(年度ベースで4勝2敗)」ということです。

やはり中長期的に見れは債券よりも株式の方が期待リターンが高いというごく当たり前の結果となったわけですが、GPIFの資産配分の問題にはもうひとつ大きなポイントがあります。そもそも、なぜ株式のウエートを上げる必要があったのか、言い換えると、なぜ国内債券のウエートを下げる必要があったかということです。この点に関してもレポートを書いたニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは的確に次のように述べています。
従来どおり日本国債中心の運用なら、単年度の大幅損失の批判を受けずに済むかもしれない。しかし、今やマイナス金利の日本国債に資産の過半を投資し続けることが、国民の大事な財産である年金積立金を預かる者として本当に責任を全うしているといえるのか、大いに疑問だ。
年金のような超長期運用における債券投資というのは満期まで保有することが基本となります。そして満期となって償還された資金で新たに債券を買い入れるラダー型運用となるわけですが、現在の日本国債の状況では新しく買い入れる国債の利回りはマイナスにすらなります。債券投資というのは基本的に利回りに対して投資することですから、はたしてマイナス利回りの日本国債を購入することが許されるのかという問題が生じるのです。

よく、現在の株式市場に対して「日銀によるETF買い入れで異常な官製相場になっている」と批判する人がいますが、じつは国債市場はそれ以上に日銀による金融緩和(国債買い入れ)によって異常な状態になっているのです。そしてそれは日銀だけの問題ではありません。リーマン・ショック以降、世界中の中央銀行が金融緩和に動いたことで世界的に国債の利回りは歴史的低水準となっています。

しかも、現在の“コロナ・ショック”によって世界各国の中央銀行は、それこそ無制限の金融緩和に動きました。しかも政府は積極的な財政政策も発動しました。こうるなると、国債市場の異常な状況は今後も長期的に続くし、続けなければ各国とも財政が維持できません。官製相場どころか、本格的な金融抑圧で利回りが抑えられる可能性すら高いと思います。そういった状況下で国債に資産の大部分を投じることがはたして“安全”なのかを考える必要があるのではないでしょうか。

今後、GPIFの運用成績が公表されれば、再び株式比率引き上げの問題がクローズアップされることでしょう。しかし、その時に注意すべは短期的な損益ではないはず。現在の異常な経済情勢の中で、より“安全”で“長期的なリターンを得る可能性の高い”資産配分とは何なのかを先入観を排して考えることの方がよほど重要でしょう。

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