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2019年9月8日

『50歳から始める! 老後のお金の不安がなくなる本』―“知ることで不安は払拭できる”を実行するための最良の入門書



いわゆる“老後資金2000万円問題”で明らかになったのは、日本人が持つ老後資金に対する不安の大きさでした。なぜ、これほど老後資金が心配になるのか。それは老後資金に関する具体像が「分からない」からにほかなりません。だから、各人が自分の老後資金についてしっかりと知り、考えましょうというのが金融庁の報告書の趣旨でした。しかし、それが騒動を巻き起こしてしまったのは、老後資金について「知る」ための具体的な方法が「分からなかった」からです。このほど、報告書を作った金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ委員である竹川美奈子さんが『50歳から始める! 老後のお金の不安がなくなる本』を刊行しました。これこそ老後資金について「知る」ための具体的な方法を詳細に解説したものであり、まさに“知ることで不安は払拭できる”を実行するための最良の入門書です。

個人のライフスタイルやライフイベントは人それぞれですから、老後資金についてもその中身は千差万別です。それだけに具体的な姿を想像するのは簡単ではありません。ついつい「平均値」や「一般論」に惑わされて、必要以上に不安になったり、あるいは思考停止になって必要な対策が見えなくなってしまう。これこそが老後資金ににまつわる不安の原因です。これを克服するために絶対に必要なのが、現在の家計や老後資金について「自分ごと」として分析すること。そのためには現在の家計や将来に向けた資産形成を「見える化」することが欠かせません。本書はこの家計や資産形成を「見える化」するための具体的な方法をわかりやすく、それでいて極めて詳細に解説しています。

本書の基本的な考え方の枠組みは、老後資金を「国から受け取るお金(公的年金保険)」「企業などから受け取るお金(退職金、企業年金)」「自分で準備するお金(貯蓄、投資)」の3階構造としてしてとらえることです。そして第1章で公的年金保険、第2章で退職金・企業年金について解説しているのですが、これが極めて分かりやすく、しかも詳細なのに驚きました。例えば公的年金保険については「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」「企業年金記録確認サービス」といった制度の具体的な使い方まで解説しているところが注目です。これはありそうでなかったポイントです。第2章では退職給付(退職金・企業年金)制度について解説しているのですが、これも企業によってさまざまなパターンがあって非常に複雑な部分です。いくつかのパターンに整理しながら、簡潔かつ詳細に説明する手腕には舌を巻きました。これも類書があまりない本書の読みどころでしょう。

さらに竹川さんの著述の見事な点は、「自分で準備するお金(貯蓄、投資)」について解説する前に第3章として「お金の管理術」にかなりの紙数を割いている点です。手取り収入額をベースに年に1度は家計の損益計算書とバランスシートを作ろうという提案なのですが、なぜこれが重要なのか。それは現在の家計を「見える化」ことはすなわち、現在の生活水準を「見える化」することだからです。第1章と第2章で紹介した方法で将来もらえるお金を「見える化」した上で、現在の生活水準を「見える化」する。そこで見えてきたものを突き合わせることで、はじめて「自分で準備するお金(貯蓄、投資)」について具体的に考えることができるという極めて重要な主張が込められているのです。このように考え方の足元をがっちりと固めた上で、ようやく第4章で「つみたてNISA」や個人型確定拠出年金(iDeCo)などを使った資産形成の方法について話が及ぶのですが、簡便にして具体的な内容はやはり初心者に最適でしょう。

そして本書の後半部分の最大の特徴と思えるのが第5章と第6章。公的年金や企業年金、iDeCo、そして「自分で準備したお金」をどのように取り崩すのかということに焦点を当てます。いわゆる“出口戦略”ですが、これはこういった本で解説するのがもっとも難しい領域です。なぜなら、個人差があまりに大きく、まさに「平均値」や「一般論」が意味をなさない分野だからです。しかし、この難問についても本書はじつに鮮やかな手つきでポイントをもみほぐしています。いくつかの具体的なパターンを例示しながら、税務戦略まで視野に入れたケーススタディーには舌を巻きました。

最初にも書いたように、多くの人が老後資金問題に不安を感じるのは、その具体的な姿が「分からない」「知らない」からです。だからこそ「知ることで不安は払拭できる」と指摘する本書は、まさにそれを実行するための最良の入門書です。「50歳から始める!」と銘打っていますが、できれば40代から読んでもらいたい1冊です。実際に40代である私は本書を読んで非常に勉強になりました。

なにより本書には“自分(や家族)について知る”ことがもっとも重要だという考え方が貫かれていることに好感を持ちました。自分のことを正しく理解すれば「平均値」や「一般論」に惑わされなくなる。それは誰かに責任を押し付けたり批判したりするような“他人ごと”の姿勢ではなく、将来の課題を“自分ごと”として真剣に考える姿勢です。そうした姿勢はいずれ自分だけではなく社会全体の問題を考える認識へと高まるでしょう。それが自立した市民としてあるべき姿勢のです。そのための第一歩に向けても本書は有益な示唆を与えてくれます。

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