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2019年2月27日
すべての新興国通貨が弱いわけではない―タイもすっかり経常黒字国に
タイ出張も折り返し地点です。やはりバンコクは暑い。さすが常夏の国です。さて、実際にタイに来て、今回も面白いことに気づきました。タイバーツが実にしっかりとしているのです。新興国通貨といえばすぐに通貨安になる脆弱さが特徴ですが、どうも風向きが変わってきたような気がします。タイバーツがしっかりとしているのは構造的な要因があると考えられるからです。そしてこれは、新興国通貨もすべてが弱いわけではないということを示唆しているように感じます。
仕事でタイの取引先を回っていると、輸出を主力とする企業から2018年はバーツ高で苦しんだという声をよく聞きます。そう言われて初めて気づいたのですが、確かに昨年後半の世界的な株価下落などちょとした経済混乱でもバーツ為替はしっかり。ここ2~3年を振り返ってもジリ高傾向となっています。これは現地で買い物をしたり両替をしたりしても実感することでした。
こうしたバーツ高は、一時的なものではないという見方が現地では強まっています。背景にあるのがタイの経常収支です。タイの経常収支は90年代までは恒常的な赤字が続いていて、これがバーツの脆弱さの根本要因と考えられていました(その帰結が97年のアジア通貨危機です)。ところが2000年代に入るとだんだんと経常収支が黒字の年が増えてくる。
つまり、経済発展によってタイも経常黒字国になりつつある可能性が出てきました。これはバーツが強くなる構造的な要因でしょう。為替変動の材料は多々ありますが、やはり長期的には経常収支がもっとも信用できると思います。なぜなら、経常収支というのは通貨の実需に直結しますから、なにもなくても経常収支が黒字の国の通貨は買われ続け、経常収支が赤字の国の通貨は売られ続けるわけです。
こうした新興国通貨をめぐる構造の変化は、新興国に投資する場合に重要なポイントとなります。通常、新興国投資の最大の弱点は為替リスクが大きいことでした。新興国通貨は弱いので、なにかあるとすぐに下落してしまうのです。しかし、タイバーツの動きが示すように新興国通貨の中には弱いとばかりいていられないものが登場してきました。
タイのように新興国の中でも経常収支が黒字の国が増え、その通貨がだんだんと強くなればどうなるか。新興国投資の最大の弱点である為替リスクが低下する可能性が高まります。そうなると、新興国投資の魅力は一段と大きくなるでしょう。これもまた新興国投資にロマンを感じるところです。
もちろん、新興国の中にはあいかわらず大幅な経常収支赤字国も多いです(例えば、ブラジルやインド、トルコなど)。また、経常収支もその中身である「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の構成によって為替への影響は変化します。だから、経常収支が黒字の国の通貨がすべて強くなるというわけでもありません。だからこそ、新興国投資というのは徹底した分散が重要になるのです。
それでも実際に現地に足を運び、新興国の通貨が強くなる可能性に触れたことが収穫です。やはりこうして私は新興国投資大好き人間になっていくのでした。
ちなみに余談ですが、ケタ違いに世界最大の経常赤字となっている国は米国です。つまり米ドルは、なにもなくても売られ、安くなっていく通貨です。最近は日本でも米国株投資の人気が高まっていますから、ひとこと言っておきたくなるのでした。