先日の記事で紹介したように「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」の第1期決算は実質コストが極めて高かったことに加えて、運用成績もベンチマークから大きく下方乖離しました。ただ、この結果をもってしてファンドの品質を評価するのは非常に気の毒だと思うので、少し補足しておきたいと思います。新興国への投資というののどうしても不可抗力的な問題を抱え込まざるを得ない部分があり、そのため設定初年度の成績というのは不安定になるからです。これはすべてのファンドの当てはまります。
「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」の第1期決算で明らかになった費用明細上の実質コストは1.896%となり、かなり割高になりました。また騰落率も-11.2%となり、ベンチマーク(MSCIエマージング・マーケット・インデ ックス(配当込み、円換算ベース))の騰落率-9.3%から大きな下方乖離となります。このうちコストに関してはマザーファンド自体が新規設定であることによる初期費用がかさんでいると考えて間違いないでしょう。
一方、騰落率の下方乖離に対しても興味深い点があります。運用報告書(全体版)を見ると、ベビーファンドに先立って2017年8月に設定されたマザーファンドの騰落率-11.0%に対してベンチマークの騰落率は-3.1%。これは運用費用だけでは説明できないものすごい下方乖離となっています。当然ながら運用報告書には理由が記載されていて、それは以下のようなものです。
これはマザーファンドにおける証券保管費用および売買費用等の要因に加え、運用開始にあたり新興国の口座開設に一定期間が必要であったことから、ベンチマークとの値動きにかい離が生じました。これら要因を除くと、おおむねベンチマークに連動した投資成果となりました。つまり、口座開設が予定通りに進まず、マザーファンドの設定日に間に合わなかったということでしょう。このためファンド設定日と実際の運用開始日の間にタイムラグが生じ、それがベンチマークとの乖離の原因になったわけです。
実際に新興国でビジネスをしたことのある人なら、この説明の意味がすぐに理解できます。新興国では日本のように手続きが予定通りに進むことは稀で、それこそ遅れるのが当たり前。とくに外国企業が関係する契約というのは、いろいろと特殊問題が発生します。なので運用報告書のこの部分を読んだ時には「まさに“新興国あるある”だな」と思いました。
新興国への投資というのは、現地の税制や資本規制の関係でコストがかさみやすい上に、商習慣の違いによる特殊事情も絡んできます。その意味で「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」の第1期決算は、新興国投資の難しさをよく示しています。
ですから、今回の結果だけを見て「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」の品質を評価するべきではありません。これは新興国投資を開始する場合に、それこそ不可抗力ともいえるハードルに直面した結果だと考えることができるからです。これは、他の新興国株式インデックスファンドの多くが経験してきたことにほかなりません。
そして同時に感じるのが、やはりインデックスファンドなど投資信託という商品の素晴らしさです。新興国への投資は技術的なハードルも高く、個人投資家が独力で取り組むのは極めて難しい。しかし、投資信託という仕組みを活用すれば、だれもが簡単に新興国に投資できます。しかもインデックスファンドの場合は極めて低コストで投資できるわですから素晴らしいとしか言いようがありません。やはりインデックスファンドを使った投資の醍醐味は、新興国株式のように個人では投資することが難しい資産クラスにこそあるのです。
そういった難しくて、でも素晴らしい新興国株式インデックスファンドという商品において「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」はコスト最安値に挑戦しています。新規設定にともなう苦労は最初から予想できたことでしょう。それでもあえて挑戦したニッセイAMの姿勢には非常に好感を持ちます。私自身は新興国株式への投資は「eMAXIS Slim新興国株式インデックス」を購入していますが、良きライバルとして「<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド」には頑張って欲しい。今後の運用動向に注目したいと思います。