2018年9月24日

新規設定ファンドの初年度決算は参考値ぐらいに考えよう―「楽天バンガード」シリーズの第1期運用報告書を読む



バンガード社のETFを通じて超低コストで国際分散投資ができる「楽天・バンガード・ファンド」シリーズ2本の第1期運用報告書が出ました。いずれも設定当初から順調に純資産残高を増やしており、その人気がうかがえます。このため実質コストも注目されていたわけですが、今回開示された運用報告書を見ると、意外と実質コストがかさんでいる結果となり、一部で心配する声も上がっています。ただ、今回の決算は初年度決算であり、しかも2017年9月29日~18年7月17日までの実質9カ月半の変則決算です。これはほかの新規設定ファンドも同様ですが、こういった変則の初年度決算の数字というのは、あくまで参考値ぐらいに考えておくべきだと思うのです。

今回、運用報告書が出た「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」(愛称「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」)と「楽天・全米株式インデックス・ファンド」(愛称「楽天・バンガード・ファンド(全米株式)」のコスト明細は以下のような結果となりました。

「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」
信託報酬:0.098%
売買委託手数料:0.167%
有価証券取引税:0%
その他(保管・監査・印刷等)費用:0.039%
合計:0.304%

「楽天・バンガード・ファンド(全米株式)
信託報酬:0.097%
売買委託手数料:0.077%
有価証券取引税:0%
その他(保管・監査・印刷等)費用:0.029%
合計:0.203%

今回の決算は9カ月半の変則決算ですから単純に通年換算すると、例えば「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」の実質コストは約0.4%。これに投資対象ETFであるバンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)の経費率0.1%が加わりますので、受益者が負担する実質的なコストは0.5%程度だと概算できます。私はこれでも極めて低コストで良心的なコスト水準だと思いますが、最近では超低コストなインデックスファンドが数多く存在しますので、どうしても割高に見えてしまう場合もあるようです。このため一部で心配する声も上がっています。

ただ、今回の運用報告だけを見て一概に「楽天バンガード」シリーズを評価してしまうのは早計でしょう。確かに売買委託手数料などは予想以上に費用がかさんでいる印象ですが、こういったことは新規設定ファンドではよくあることです。とくに「楽天バンガード」シリーズは、マザーファンド自体も新規設定ですから、どうしても初期費用がかさんでしまう。こうした問題は、いずれ純資産残高が大きくなってくれば、相対的に低下していくはずです。

これは運用の精度についてもいえることです。「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」の騰落率は+5.8%に対してベンチマークであるFTSEグローバル・オールキャップ・インデックス(円換算ベース)の騰落率は+7.3%となり、かなりの乖離となりました。これに対して楽天投信投資顧問は運用報告書の中で次のように理由を説明しています。
主な差異要 因としては、マザーファンドにおける継続的な資金流出入に伴う投資先ETFの売買執行コストの積み重なりや投資先ETFからの分配金に対する課税、当ファンドにおける信託報酬等の要因が挙げられます。
投資先ETFからの分配金に対する課税や信託報酬はどうしようもありませんが、売買執行コストの積み重ねが運用精度の下方乖離の要因になるというのも新規設定ファンドでよくあることです。そして、この売買執行コストも純資産残高が大きくなってくれば、相対的にファンドの基準価額の変動に与える影響が小さくなっていきますから、いずれは落ち着いてくるはずです。

ただし、「楽天バンガード」シリーズは海外ETFに投資するファンド・オブ・ETF型のインデックスファンドですから、現物株式に投資するインデックスファンドと比べてベンチマークへの連動がやや甘くなる傾向があることは知っておいた方がいいかもしれません。これはファンドへの資金流入、為替取引、実際のETF購入、投資対象ETFの基準価額算出などのタイミングが微妙にズレるためだと想像できます(ちなみに、SBIアセットマネジメントの「EXE-i」や「雪だるま」シリーズは複数の海外ETFに投資するファンドのため、この傾向はもっと顕著です)。

ですから、FoETFのインデックスファンドに投資する場合は、ベンチマークとの連動に対してあまり神経質にならない方がいいでしょう。テクニカルな要因による乖離がどうしても起こりやすいですから。個人投資家が海外ETFに直接投資する場合に必要な手間暇を省略できるメリットとトレードオフの関係にあるデメリットだと割り切るぐらいでちょうどいいのでは。

いずれにして「楽天バンガード」シリーズの初年度決算を見ただけでファンドを評価してしまうのは勇み足です。あくまで変則決算の参考値として見るぐらいでちょうどいい。きちんと通年の数字が出てくる次の決算に注目したいと思います。そして、やはり「楽天バンガード」シリーズは、簡便・低コストで全世界や全米の株式に分散投資できる優れたファンドだという評価も変わっていません。引き続き注目のファンドだと思います。

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