2018年8月5日

日本の個人投資家は「外国債券投資不要論」が成り立つ幸運な国に住んでいる



国際分散投資や資産運用の教科書を読むと、たいていの場合は「国内株式、外国株式、国内債券、外国債券に分散投資しましょう」と書かれています。一方でインデックス投資ブログなどを読むと「外国債券への投資は不要」という意見が少なくありません。さて、どちらが正しいのでしょうか。じつは両方とも正しいのです。正確に言うと、国際標準の考え方では外国債券への投資は必要だけれども、たまたま日本人は外国債券不要論が成り立つ幸運な国に住んでいるということです。

日本で「外国債券投資不要論」が唱えられる理由の1つが、金利とインフレ率は基本的にバランスしているので外国債券は金利が高くてもその分は通貨が下落し、長期的に見れば国内債券と期待リターンが大きく変わらないということがあります。そしてポートフォリオにおける債券の役割はリスク低減効果ですが、外国債券はかえって為替リスクを高めてしまうため、余計ではないかということになります。

これは1つの考え方として正しい。日本で国際分散投資するなら、いまのところ無理に外国債券を組み入れる必要はないというのは合理性のある見識です。ただし、こうした「外国債券投資不要論」が成り立つためには重要な前提条件があります。それは、国内債券と自国通貨の信用が極めて高いということ。そして、世界的に見ればこうした前提条件をクリアできる国は意外と少ないのです。

一般的に各国の通貨は「ハードカレンシー」と「ローカルカレンシー」に大別できます。ハードカレンシーというのは国際的に十分な信用があり、各国通貨との交換が容易な通貨のことです。現在、ハードカレンシーとされるのは米ドル、ユーロ、円、英ポンド、スイス・フランです。それ以外の通貨は基本的にローカルカレンシーとなり、その通貨自体の信用が低い。

つまり、「外国債券は為替リスクが高い」と言っていられるのは、基本的にハードカレンシーで生活している国の人だけなのです。ローカルカレンシーで生活している国の人にとっては、自国通貨の方が為替リスクが高かったりする。なぜならローカルカレンシーの国では自国通貨の大幅下落による輸入品価格上昇などで容易に高インフレになり、それが購買力や資産価値の毀損に直結するからです。

こう考えると「外国債券投資不要論」が成り立つのは日本のほか、米国、ユーロ圏諸国、英国、スイスに住んでいる人だけでしょう。実際にこうした国では外国債券への投資は個人レベルではマイナーです。しかし、ローカルカレンシーの国で生活している人にとっては、外国債券こそが資産防衛の本丸だったりする。南米や東南アジア、あるいはアフリカのお金持ちにとってハードカレンシー建ての外国債券への投資は当たり前のことなのです。最近ではトルコ・リラの下落が激しいですが、トルコのお金持ちで財産全てをトルコ・リラ建てで所有している人などいないはずです。

世界ではハードカレンシーで生活している人よりもローカルカレンシーで生活している人の方が多数派です。だから国際的な標準では「外国債券への投資は必要」ということになる。国際分散投資や資産運用の教科書では「外国債券にも投資しよう」となるわけです。教科書というのは普遍性を求められますから。逆に日本で「外国債券投資不要論」が唱えられても矛盾しない。それは日本がハードカレンシーで生活できる特殊な国だからです。

重要なことは、教科書に書いていることや他人の意見を盲信するのではなく、あらゆる投資理論には前提条件があるということを理解することでしょう。前提条件が異なれば結論は正反対になることだってある。外国債券投資の是非などはその一例です。そして、経済は生き物ですから、投資のための前提条件というのも万古不変ではありません。常に変化していきます。だから、いまのところ日本で暮らす人にとって「外国債券投資不要論」は合理的だけれども、それがいつまでも絶対の考え方ではないということを知っておくのは大切なことなのです。

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