2017年12月28日

ビットコインなど仮想通貨に投資している人は知っておくべきケネス・ロゴフ教授の慧眼



2017年の投資業界で最大の話題といえば、ビットコインなど仮想通貨でしょう。いよいよ取引所のテレビCMまで始まっていて、一種のブームになっているのかもしれません。私自身は仮想通貨を保有していませんが、ブロックチェーンなど背景にあるテクノロジーにはものすごい可能性が秘められていると思っているので、一概に現在の仮想通貨の価格をバブルだとは断言しません。もしかしたら現段階ではほとんど利用価値がないゆえに異常な割引価格だったものが、将来の利用価値(すなわち決済手段としての普及)を見越して適正価格に戻している過程かもしれませんから。ただ、より本質的な部分で興味深い指摘をハーバード大学のケネス・ロゴフ教授がしています。

視点:ビットコインの「真価」はいくらか、リバタリアンの誤解=ロゴフ氏(ロイター)

ロゴフ教授の慧眼は、ビットコインなど仮想通貨に投資している人は必ず頭の片隅にでも入れておいた方がいいポイントを示しているように感じます。

そもそも通貨発行権というのは国家権力にとって権力の源泉のひとつです(だから、どの国でも通貨偽造の罪は極めて重い)。これに対して仮想通貨は、そういった国家権力が独占している通貨による価値の「交換・保存」機能をテクノロジーの力で人々の間に取り戻そうという一種のアナーキズム的な思想的背景があります。そのため、どこか国家権力との軋轢を生みやすい性質があるのです。

それでも国家権力が仮想通貨をある種、容認しているのは、ブロックチェーンに代表されるテクノロジーのイノベーションを促進したいという目論見があるからでしょう。特に日本の当局は世界の中でも最も仮想通貨に対して融和的です。その背景には、これまで日本はインターネットなどテクノロジーのイノベーションの導入に対して後手に回ったがために、新しいテクノロジーが生み出すビジネスで欧米どころか中国などに対してもプレゼンスを失ってしまい、それが“失われた20年”の遠因になった可能性があるという反省があるからのような気がします。

だからこそ仮想通貨にとって最も重要なポイントは国家権力との距離感だということです。既に中国や韓国、インドネシアなどでは国家権力が仮想通貨を規制する動きを見せており、それが一時的な暴落の要因になったりもしている。もちろん国家が規制したからといって仮想通貨がなくなるわけではありません。なぜなら仮想通貨というのはテクノロジーのシステムであり、いくら規制してもテクノロジーの存在自体を消滅させることはできないからです。しかし、これをもっと敷衍すると、仮想通貨のテクノロジーが生き続けることと、ビットコインなど“いま存在している仮想通貨”が生き残ることは無関係だとも言えます。そして、国家権力が利用したいのはブロックチェーンなどに代表される“仮想通貨のテクノロジー”であり、ビットコインなど“いま存在する仮想通貨”ではないということを忘れてはいけません。

ロゴフ教授の慧眼は、この点を明確に見極めています。さすが通貨について特異な視点を提議し続けたロゴフ教授ならではだと感心しました。ロイターのインタビューでは次のように述べています。
マネーの過去、現在、未来を論じた自著(「現金の呪い」)で指摘した通り、通貨の長い歴史において、民間セクターがイノベーションを起こしても、やがて政府が規制し、合法的にわが物とすることが何度も繰り返されてきた。確実に同じことが暗号通貨でも起こる。
リバタリアン(自由至上主義者)たちは、ビットコインが全ての法定通貨を打ち負かすと考えているようだが、彼らは間違っている。通貨については、ルールを決めるのは政府であり、勝つまでルールを変えることができる。
通貨に関して「勝つまでルールを変えることができる」ことこそが、国家権力の本質です。だから、やはりロゴフ教授が例示するように仮想通貨のイノベーションを取り込むために中央銀行が仮想通貨を発行することだってありえる。中央銀行ではなくても、国家が公認する特定の民間金融機関に仮想通貨を発行させることだってできる。その場合、中央銀行や国家公認の金融機関が発行する仮想通貨以外の仮想通貨での決済を国家が禁止したらどうなるか。恐らく“いま存在する仮想通貨”の価値はゼロになるでしょう。なぜなら、仮想通貨の「価値」とは、決済などでの「交換価値」しかないわけですから。そして、このことは既に専門家の間で議論されているのです。

ビットコインの価値は“ゼロ”かも —— モルガン・スタンレーがレポート(BUSINESS INSIDER JAPAN)

だから、ビットコインなど仮想通貨に投資するということは、常に国家権力と対峙する可能性を含んでいるということを忘れてはいけないと思う。そして、国家権力と対峙した場合、それは「絶対に勝てない戦い」になるかもしれないということも。

※通貨に対して特異な視点を提示し続けているロゴフ教授の著書は日本で翻訳が出ています。

『現金の呪いーー紙幣をいつ廃止するか?』


『国家は破綻する――金融危機の800年』

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