インデックス投資に関する基本文献のひとつである『敗者のゲーム』の著者による『チャールズ・エリスのインデックス投資入門』
本書の原題は『The Index Revolution: Why Investors Should Join It Now』
その意味で本書のもっとも読ませる部分は第1部「インデックス運用への長い道のり」です。これはインデックス運用がなぜ生まれたのかという歴史的経緯を記す一種の「インデックス運用発生史論」なのですが、同時に、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業して運用会社に就職した若きエリス氏が上司の命令で博士号取得のために通ったニューヨーク大学でインデックス投資を知り、やがてその有効性を確信するに至る遍歴の記録でもあるのです。
アクティブ運用に従事していたエリス氏は1970年代頃からアクティブ運用が市場平均を上回ることが極めて難しくなっていることを実感します。そして学界では既に50年代から効率的市場仮説や現代ポートフォリオ理論を応用した運用理論の研究が続けられ、インデックス運用の有効性に対しても徐々に実証研究が進められていたわけです。当時、運用の実務家と運用理論の研究者の間には大きな隔絶があったわけですが、エリス氏は運用の実務者であると同時に運用理論の研究者であったがために両者を往還しながら、徐々にインデックス運用の有効性を認識していく過程は異様な迫力があります。
じつはインデックス運用も黎明期にはそれほど振るいませんでした。まだインデックス運用に勝つアクティブ運用が多く、このため投資家が市場平均では満足できなかったからです。ではなぜ70年代ごろからアクティブ運用がインデックス運用に勝てなくなってきたのか。それは投資業界と市場の構造が決定的に変化したからにほかなりません。アクティブ運用の優位性の前提は「他人よりも早く投資に有利な情報を入手する」ことに尽きるわけですが、メディアや情報通信技術の発達が「他人よりも早く情報を入手する」ということを不可能にしてしまった。止めを刺したのは米国証券取引委員会(SEC)がレギュレーションFD(フェアディスクロージャールール)を制定したことでした。企業情報はすべての投資家に同時に発信しなければならなくなり、この瞬間、これまでアクティ運用のファンドマネージャーの成功のカギだった「自分だけが知っている情報」が、「みんなが知っている情報」になってしまった。
エリス氏が偉大だったのは、こうした構造的変化こそがインデックス運用が有効性を発揮する基盤だということを看破したことです。それがいわゆる「敗者のゲーム」という考え方に他なりません。それは理屈の上で理解したことではなく、ひとりのアクティブ運用ファンドマネージャーとして実感をによって理解したということが本書を読めばよく分かるでしょう。そこに本書の魅力があります。
こうしてエリス氏が獲得したインデックス運用の有効性に関する認識が第2部「インデックスを勧める10の理由」で紹介されています。これは主著『敗者のゲーム』
本書は『敗者のゲーム』のエッセンスが詰め込まれただけでなく、見事なサイドストーリーでもあります。だから本書を読めば、エリス氏が運用実務者であると同時に運用理論の研究者として50年に渡って積み上げてきた成果を追体験できるでしょう。そして本書を読んで面白いと感じたのなら、ぜひ『敗者のゲーム』