2017年12月12日

『お金は寝かせて増やしなさい』―投資の本質を捉えた「インデックス投資原論」



インデックス投資ブロガーの第一人者である水瀬ケンイチさんの初の単著『お金は寝かせて増やしなさい』が刊行されました。さっそく読んでみたのですが、一読して驚きました。漫画が挿入されたり、分かりやすい記述は見事な「インデックス投資入門」に仕上がっているのですが、この本の値打ちはそれ以上のものだと感じたからです。それは投資の本質を捉えた解説がなされていること。つまり、本書は単なる「インデックス投資概論」ではなく、実に硬派な「インデックス投資原論」となっているのです。

本書ではインデックス投資についての解説や有効性の説明などがかなり詳しく説明されています。特に第2章「寝かせて増やすインデックス投資の実践法」は、まず家計収支の把握と「生活防衛資金」の確保がスタートであり、それを無視して投資を開始してはいけないということがかなり強く訴えられているのですが、これは非常に重要なことです。そして投資で最も大切なことはリスク管理であるとして、リスクの把握に関して統計学まで含む詳細な解説がなされていることが特徴です。アセットアロケーションの決定の目的は、目標リターンに基づく配分を探すことではなく、リスク許容度の中で効率的な資産配分を追求することに他なりません。だから水瀬さんが指摘するように「リターンではなく、リスクから資産配分を決めるという手順を間違えないでください」というのは、極めて重要なことなのです。

しかし、こういった主張は水瀬さんが自身のブログや山崎元氏との共著『全面改訂 ほったらかし投資術』の中でも強く主張していたことですから、ブログや前著の読者にとってはお馴染みの内容かもしれません(ただし、単著らしくかなり詳細に記述されている点は本書の美点です)。それ以上に本書を読んで印象深かったのは第4章「始めるのはカンタンだけど続けるのは意外と難しい」です。これこそ実際にインデックスファンドの積み立て投資を実践してきた個人投資家だからこそ書くことのできた内容でしょう。インデックス投資といえども、決して低リスクな投資方法ではありません。あらゆる投資手法と同様に投資家はリスク、つまり日々の価格変動と向き合わざるを得ません。このときに必要なのは、株式など投資対象が日々の価格変動を経ながらも「長期的には成長する」ということを信じることです。しかし、ここでいう「信じる」とは信仰という意味でありません。経済の仕組みについて科学的に理解するということです。

その意味で第4章に「グルグル回って自己増殖する「資本」」という項目があることこそが、本書を単なる「インデックス投資概論」ではなく、投資の本質を捉えた「インデックス投資原論」にしている。ここでは資本主義の定義として「労働力を商品化、剰余労働を剰余価値とすることによって資本の自己増殖を目指し、資本蓄積を最上位におく社会システム」という『ブリタニカ国際大百科事典』の記述が引用されていますが、これこそマルクスが『資本論』によって分析した社会システムとしての資本主義理解です。なぜ資本主義経済は長期的には成長するのか。それは、あらかじめ成長することを目的とされた経済システムだからにほかなりません(それは良いことなのか悪いことなのかは別の話です)。そして本書は、こうした資本主義に対する本質的理解を前提として投資を捉える考え方が貫徹されている。だからこそ全体の主張が上滑りにならず、ある種の深みをもたらしてくれるのです。

日本ではいまだに「投資は、しょせんギャンブルだ」と主張する人が後を絶ちません。しかし、「投資=ギャンブル」としか感じられないのは基本的に資本主義というシステムに対する理解が浅いからです。それはつまり、投資に対して“科学的に理解する”ということができていないということです。こうした投資に対する科学的な理解が専門家だけでなく個人投資家の間でも共有されることは極めて重要でしょう。それこそが本当の意味で「投資が一般庶民に普及する」ための絶対条件だからです。だから水瀬さんが本書で個人投資家の立場から投資に対する科学的な理解にまで踏み込んだ記述をしたことは、極めて意義があると思う。その点だけでも本書は百凡の投資入門書とは一線を画するレベルにあると思うのです。

そのほか第5章「涙と苦労のインデックス投資家15年実践記」は、パイオニアならではの体験談として必読でしょう。特にリーマン・ショックによる大暴落に際して、ブログのコメント欄やメールで大量の誹謗中傷が投げつけられたという話は考えさせられました。はっきり言いますが、投資はどこまでも自己責任の原則が貫徹される世界です。だから、損をしたときに、それを他人のせいにするのは最も恥ずかしい行為です。結局、そういった恥ずかしい行為をする人というのは、やはり投資を「科学的に理解する」ということができていなかったのでしょう。逆に投資について科学的に理解できている人は、それこそ水瀬さんのように大暴落で資産が半減しても南の島に遊びに行って人生をエンジョイすることができる。ちなみにこの部分を読んで、次の大暴落があれば私も南の島に遊びに行こうと決心しました。

そして、投資について科学的に理解している人なら第6章「貴重情報!インデックス投資の終わらせかた」も十分に納得できるでしょう。ここではインデックス投資に対してよく言われる「出口戦略がない」という批判に対する水瀬さんなりの回答があります。それは、そもそも「出口戦略は無意味」ということです。私は、この考え方に全面的に同意します。この部分はぜひ実際に本を手に取って読んでみてください。なぜなら、この部分をしっかりと理解できるかどうかで、その人がインデックス投資について本当に科学的に理解しているかの試金石になると思うからです。

最近は個人型拠出年金(iDeCo)の加入対象者拡大や厚生年金基金解散に伴う企業型確定拠出への移行増加などによって従来以上にインデックス投資の重要性が高まっています。2018年からは「つみたてNISA」も始まりますが、ここでも対象商品はインデックスファンドが中心。このため、新たにインデックス投資に挑戦しようという人も多いことでしょう。そういった人が最初に読むべき参考書として、私は本書を強く推します。なぜなら、本書は単なる入門書・概説書の枠を超えて、インデックス投資あるいは投資全般について本質を捉えた「原論」が展開されているからです。それは読者が投資に対して科学的に理解することを大いに助けてくれるでしょう。本書のエピローグは「寝かせて増やすことはつまり人の未来を信じるということ」とありますが、ここでいう「信じる」というのは「信仰」ではなく、信仰を超えて「科学的に理解する」ということに他ならないのですから。

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