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2017年8月14日
「投資」と「保険」を比較するのは無意味―本来の目的を理解して利用すべし
将来に向けた資産形成をやっていると、保険とのつき合い方という問題が出てきます。そんな中で、ときおり「投資」と「保険」を比較して「保険は損。その分を投資に回した方が良い」といった意見も登場します。しかし、これはまったくトンチンカンな意見でしょう。そもそも「投資」と「保険」を比較すること自体が無意味です。なぜなら、それぞれまったく目的が異なるから。目的の異なるものを比較することはできません。それぞれ本来の目的を理解して利用すべきなのです。
そもそも保険というのは、めったに起こらないけど、発生すると非常な損害を受けてしまう事態に備えるものです。だから保険金が出るような事態に遭遇しなければ掛金を損するけど、保険金が出るような事態に遭遇したときには支払った掛金以上の保険金を受け取る。つまり、保険というのは契約者が平穏無事に過ごすことができれば、基本的に損をするものなのです。少しの損で大きな損に備えるというのが保険の本質です。
一方、投資はある種のリスクを負うことで将来のリターンを目指す行為です。少なくとも期待リターンがプラスものに投資するわけですから、損することがある種の前提である保険とはまったく異なるし、めったに起こらないけど、もし起これば自力でまかないきれない大きな損失に備えることも難しい。なにしろ投資の結果は不確実ですから、保障が必要なときに必要な保障額を投資で確保できるか不確実だからです。
このように「投資」と「保険」は目的も性質もまったく異なるわけですから、それを比較することは無意味だし、単純に優劣を論じることも不毛。それは目的地に向かうのに、車を使うべきか船を使うべきかを論じるようなものです。そんなもん、目的地によりけりでしょうが。目的によっては「投資」が適している場合もあるし、「保険」でなければ対応できないものもある。
だから、きちんと目的を理解していれば、保険はとても大事な金融商品だと分かります。十把一絡げに否定してはいけない。ましてや「保険に入るくらいなら、その分を投資に回すべき」などということを安易に言ってもいけないのです。それは危険なミスリードを誘います。
しかし、なぜ保険に対する批判が生まれるのか。ひとつは日本人がやや保険に入り過ぎる傾向があるからでしょう。保険は基本的に損することが前提の金融商品ですから、過剰に保険に入ることは家計のキャッシュフロー面に悪影響を与えます。結局、これも契約者が保険の目的や性質をよく理解せずに加入してしまっているから。よく分からずに金融商品を購入するという問題は、なにも投資信託など投資のための金融商品に限りません。
もうひとつは、保険としての品質がいまひとつの商品が大々的に販売されているからです。その代表例が医療保険でしょう。医療保険がなぜダメかと言うと、掛金に対して保障内容がショボイから。医療保険も生命保険の一種ですが、生命保険の良し悪しはというのは、いかに少ない掛金で大きな保障を得られるかです。これを「レバレッジが効く」というのですが、医療保険はレバレッジがあまり効いていない。
ちなみに公的医療保険である健康保険は高額療養制度(長期入院や高額医療によって自己負担する医療費の月額が一定額を超えると差額が還付される制度)などがあるので、ものすごくレバレッジが効いている。つまり医療保険が損だと批判されるのは、生命保険の強みであるレバレッジがあまり効かないから損だと言われる。べつに投資や貯金と比較して損という意味ではありません。他の生命保険と比較して性能が劣るから損だと考えるべきなのです。
もっとも、貯蓄のない家計にとっては医療費の自己負担分だけでも大きな負担になります。そういう家計なら医療保険に入ることに意味がある。それはやはり自力ではカバーできないリスクに備えるという保険の目的にかなっているからです。だから、医療保険への加入というのは、医療費が発生したときにそれを自力でまかなうことができるのかという判断に基づくものでなければならないでしょう。それが保険の目的をきちんと理解して利用の是非を判断するということです。
個人年金保険のような貯蓄性保険の場合はどうでしょうか。貯蓄性保険というのは、文字通り貯蓄を目的とした商品ですから、保険本来の目的から少しずれた商品です。性格が自堕落できちんと貯金や資産形成ができない人間の弱さというリスクに備える商品かもしれません。大事なのは、やはり「投資」と比較してはいけないということ。なぜなら貯蓄性保険は基本的に元本保証ですから、元本保証がない投資と比較するのは無意味です(ただし、変額保険は運用によって受取額が変わりますから、投資と比較するべきです)。貯蓄性保険は、あくまで同じ元本保証商品である預金と比較するべきです。
では貯蓄性保険は預金と比較して有利なのか。確かに預金と比較して利回りは良くなります。ただし、途中解約すると元本割れになるケースが多いですから、流動性が大きく制限される。流動性を失う代わりに得る利回りがプレミアムとして適正なのかを判断することで有利不利の判断が分かれます。そしてもうひとつ重要なのは、預金金利は経済情勢によって変化しますが、貯蓄性保険は基本的に契約時の利回りが長期間固定されるということです。
どういうことかと言うと、金利が将来的に低下するならば貯蓄性保険は預金と比較して得な商品ですが、上昇するなら貯蓄性保険は損ということ。つまり、貯蓄性保険が得なのか損なのかは将来の金利状態に左右される。ちなみに現在の預金金利のベースとなる日本国債の長期利回りはほぼゼロ%。今後、長期金利がどんどんとマイナス金利となっていくなら貯蓄性保険はお得な保険になるでしょう。でも、もし逆なら・・・。つまり、貯蓄性保険というのは、現在の経済情勢の中で得な商品を作るのが難しくなっているのです。
いずれにしても保険というのは本来の目的を理解した上で利用すべきものなのです。なにより基本的には損だということを理解した上で、だからこそ意味があるものとして必要な分だけ利用するのがいいでしょう。そして、過剰に保険に入ることは良くないけれども、本来は比べられないものと比較して全否定するのも間違っているのです。
ただ、最後に指摘しておかなければならないのは、他の金融商品と比較して保険は手数料に関する情報開示が全く遅れているということ。保険料は純粋な保険原資となる純保険料と保険会社の運営経費に使われる付加保険料(手数料)で構成されていますが、付加保険料の水準はほとんど開示されていません。こういった手数料水準の不透明さが、いたずらに“保険不要論”を蔓延させている要因です。このあたりは保険会社が真剣に考えなければならないでしょう。
【ご参考】
偉そうなことをつらつらと書きましたが、私の保険に関する知識は基本的に種本があります。それが出口治明さんの『生命保険とのつき合い方』。このブログでも紹介しました。関心のある方は、ぜひ一読をお勧めします。
『生命保険とのつき合い方』-生命保険の本義に基づく入門書
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