以前にブログで報告したように2018年から始まる積立NISAでは、対象となる投資信託に関して厳しい条件規制が課せられることになります。このため日本で現在5000本以上存在する投資信託がの中で金融庁が定めた積立NISA対象基準を満たすファンドは50本強しかないということになりました。現段階で積立NISA対象商品と成り得るファンドを具体的にスクリーニングした記事が出ています。
積立NISA、金融庁基準に適うアクティブ投信はわずか5本…森長官の講演が話題(QUICK Money World)
とくにアクティブファンドについては、わずか5本しかないという驚くべき結果です。これを読んで改めて感じたのは、金融庁による積立NISA対象商品への規制は日本の投信業界の異常さを浮き彫りにしたということです。
積立NISAの対象となる投資信託は、まず共通要件として「信託契約期間が無制限または20年以上」「分配頻度が毎月でないこと」「ヘッジ目的の場合等を除き、デリバティブ取引による運用を行っていないこと」とした上で、インデックスファンド、インデックスファンド以外(アクティブファンド)、ETFそれぞれに細かい制限が加えられます。とくに規定が厳しいのがアクティブファンド。共通要件に加えて以下の要件をクリアする必要があります。
・純資産が50億円以上
・信託設定以降、5年以上経過
・信託の計算期間のうち、資金流入超の回数が2/3以上であること
・主たる投資の対象資産に株式を含むこと
・販売手数料:ノーロード
・受益者ごとに信託報酬等の概算値が通知されること
・金融庁へ届出がされていること
・国内資産を対象とするものの信託報酬:1%以下(税抜)
・海外資産を対象とするものの信託報酬:1.5%以下(税抜)
QUICKのスクリーニングによると、現在販売されているアクティブファンドでこれら条件を満たすのはわずか5本しかありません。いかに厳しい規制かということです。こうした規制に対して、とくに「純資産が50億円以上」「信託の計算期間のうち、資金流入超の回数が2/3以上であること」という条件は、あまりに厳しすぎるのではという指摘があり、実は私もそう思っています。あまり目立っていなくても十分に低コストで個性的なアクティブファンドが日本にあるはずだから、それらを一律に排除するのはもったいないと思っていました。
ところが、純資産、流入額といった要件を外してスクリーニングしても、あまり状況が変わらないという驚くべき結果をモーニングスターが伝えています。
純資産、流入額などの変動要因を除いても積立NISAの条件を満たすアクティブは2%以下(モーニングスター)
純資産額と資金流入超という条件を外しても、積立NISAの対象と成り得るファンドはわずか54本、全体の2%以下しかない。しかも、多くのファンドが要件をクリアできない理由が情けない。モーニングスターの記事は次のように指摘しています。
資金流入や純資産額はデータの参照タイミングや期間で抽出結果が異なる可能性がある要因(以下、変動要因)であることから、それ以外の商品設計上の条件である(1)信託期間、(2)毎月分配型以外、(3)株式型・資産複合型の3つと、コスト上の条件である(5)販売手数料と(7)信託報酬に分けて抽出してみると、前者の3つの条件を満たすのは699本ある一方で、後者の2つの条件を満たすのは109本にとどまる。ようするに、大部分のファンドが積立NISA対象商品となる要件のうちコスト上の条件で脱落しているということ。これは情けない話です。なぜなら、金融庁が定めるコスト上の要件は国内資産対象ファンドなら信託報酬1%以下、海外資産対象ファンドなら同1.5%以下です。これはべらぼうに低い水準でありません。ひと昔前ならアクティブファンドのコスト水準として極々普通のレベルです。その基準すら、ほとんどのアクティブファンドはクリアできない。
確かに金融庁の積立NISA対象商品規制は厳しすぎる面があります。しかし、もっともハードルが高いと思える資産額と資産流入状況という要件を外したとしても、やっぱりほとんどのアクティブファンドは信託報酬の上限というもっとも単純な要件をクリアできず脱落してしまう。ここに日本の投信業界の最大の問題がある。それは、積立NISAの規制についていろいろと能書きを垂れる以前に、そもそもほとんどのアクティブファンドはコストが高すぎてお話にならないという問題です。
こういう基本的な問題が可視化されるという点だけでも、金融庁による積立NISA対象商品への規制は大きな意味があると思う。まさに今回の規制は、高コスト体質のアクティブファンドが跋扈しているという日本の投信業界の異常さを浮き彫りしたのですから。
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