サイト内検索
2017年3月4日

GPIFの2016年10~12月の運用成績は10.5兆円のプラス―巨額の年金基金にとって安全資産など存在しない



定例の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ウオッチです。2016年第3四半期(10~12月)の帳簿上の運用益は+10兆4973億円、期間収益率は+7.98%、市場運用開始来の収益率は年率2.93%となりました。

平成28年度第3四半期運用状況(GPIF)

第2四半期に続いて大幅なプラス収益となったわけですが、やはり昨年11月以降の“トランプ・ラリー”と円安傾向が大きな追い風になっています。年金積立金のような超長期運用が前提の資金に対して短期的な収益を云々するのはそれほど意味のあることではありませんが、マイナス収益になればトップ記事、プラス収益なら中面でひっそりと報じるという日本のマスコミの姑息な態度に義憤を感じているので、せめてこんな小さな個人ブログでもGPIFの運用の実際を評価しておきたいたいと思います。あいかわらずパッシブ運用における国際分散投資の見本のような運用が続いており、きちんと世界的な上昇相場の果実を確保した運用結果だと言えるでしょう。また、今回の運用結果を見ると、資産クラスごとの収益率が非常に面白かった。なぜなら、GPIFのような巨額の年金基金にとって安全資産など存在しないということが分かるからです。

10~12月期は10兆円を超えるプラス収益となったことでGPIFの総資産は144兆8038億円となりました。市場運用開始来の累積収益額は53兆617億円と、ついに50兆円を超えてきました。また、10~12月期の利子・配当収入は6693億円に達します。7~9月期の利子・配当収入は5012億円でしたから、こちらも順調に増加しています。利子・配当収入というのは単なる評価額の変動ではなく、実際に基金に入金された現金ですから、実体をともなった具体的な投資収益ということ。ちなみに国内債券の利回りは極めて低利で推移していますから、これだけの利子・配当収入を得ることができたのは、ポートフォリオにある程度の比率で株式を配分しているからにほかなりません。株式投資といえば株価上昇による収益ばかり注目されがちですが、実は超長期の運用においては配当収入の重要性が一段と高まるのです。

もう一つ今回の運用報告を見て面白いと思ったのは、各資産クラスごとの期間収益です。各資産クラスごとの時間加重収益率は以下のようになっています。

国内債券 -1.07%
国内株式 +15.18%
海外債券 +8.82%
海外株式 +16.46%

国内債券だけがマイナスとなっています。株式が上昇すれば債券が下落するという相関がきちんと働いているということが分かるのですが、もっと言うと国内債券といえどもきちんと下落するという事実に注意する必要があります。通常、債券価格のボラティリティは小さいですから、騰落率の分析にはベーシスポイント(0.01%)単位で考えます。すると1.07%の下落というのは、107ベーシスポイントの下落ですから、かなり大きい下落です。現在、国内債券の最終利回りが0%前後とすると、107ベーシスポイントのマイナスを取り返すのは、経済情勢急変などで国債価格が急騰でもしないかぎり限り、かなり時間がかかると見た方がいいでしょう。

ようするにGPIFのような巨額の年金基金にとって完全な無リスク資産など存在しないということです。よくGPIFの運用を批判する人の中に、100%国債で運用しろと言う人がいるのですが、もしGPIFが100%国債で運用していれば、10~12月期の期間収益はマイナス1兆円を超えていた。そして、このマイナス1兆円は、なかなか挽回するのが難しい損失となります。100%国債で運用しても、完全に安全とは言えないのです。

このあたりが現金で資産を保有できる個人と、GPIFのような巨額の機関投資家の大きな違い。GPIFが現金で資金を保管しようと思っても、140兆円を超える資金を預かってくれる金融機関なんか存在しません。もし預かってくれるところがあれば、多額の手数料を徴収されるでしょう。結局、安全資産としては国内債券を保有するしかないのですが、日本国債のようにマイナス利回りになっている国債というのは、もうそれだけで長期的には損する可能性が高い。つまり、国債100%での運用などは、ぜんぜん安全ではないのです。

だから、GPIFの運用に関して安全性の面から批判しても無意味なのです。もし日本の年金制度を批判するなら、GPIFの運用を批判するのではなく、年金原資の一部を運用しなければならない制度設計自体を批判するべきでしょう。つまり、現在の保険方式なんか止めて、さっさと全額税方式への制度改正を提唱するべきです。それはそれで社会保障制度論としてひとつの見識です。そして全額税方式を提唱する人には、ぜひ持続可能な年金制度に必要だと想定される社会保障税の税率と給付水準を示していただきたい。その上で、現在の保険方式との比較でメリット・デメリットを議論すればいい。その方が少なくともGPIFの短期的な運用成績を云々して世の中のガス抜きに利用しようとすることよりも、よほど建設的なのです。

そんなわけで、日本の年金制度設計の是非とは別に、GPIFの運用自体は極めて健全に行われているというのが私の考えです。ある意味でパッシブ運用における国際分散投資の見本。最近、個人型確定拠出年金(iDeCo)への関心が高まっているわけですが、iDeCoを運用する人にとっても、GPIFのやり方はじつに参考になるでしょう。とくにポートフォリオ配分の決定で迷う場合は、GPIFのポートフォリオ配分を一つの参考にするのもありかもしれません。なにしろGPIFの資産配分は、国家の威信をかけて多数の専門家が膨大な時間と労力をかけて算出したものですから。「ぼくのかんがえたさいきょうのぽーとふぉりお」とはレベルが違うのです。

関連コンテンツ