2016年8月23日

すべての投資家は情弱である



世の中には様々な投資手法が存在します。市場の懐は非常に深いですから、それぞれの投資手法は何らかの前提条件の下で素晴らしい整合性を発揮するものです。だから、それを最適解として“発見”をした投資家は、つい他の投資手法を批判したくなるのも人間の性でしょう。しかし、投資の最適解を求めるというのは、それほど簡単はことではありません。例えばインデックス投資に対する批判のひとつとして「リターンの悪い指数にまで分散して投資するのは情弱のすることだ」というものがあります。たしかに過去20年や30年のデータを見れば、例えばS&P500のリターンはTOPIXをはるかに凌駕していますから、TOPIXには投資せずにS&P500に連動するインデックスファンドやETFにだけに投資するのが最適解のように見えます。では、それでも様々な指数に分散投資しているインデックス投資家は情弱なのでしょうか。私は、ある意味で情弱だと思います。しかし同時に、すべての投資家は情弱でしかありえないとも考えるのです。

はたしてS&P500とTOPIXのどちらが歴史的に見てリターンに優れるのでしょうか。実際に過去のデータを見てみましょう。ここでは簡単にmyINDEXを使いました。また、日本の株価指数と海外の株価指数を比較する場合、為替要因を考慮することが欠かせないので、S&P500(配当込)円ベースとTOPIXを比較します。1986年7月末から2016年7月末までの過去30年間の累積リターン比較は次のようになります。



まさにS&P500の圧勝です。この30年間、どれほど米国株が力強く成長し、一方で日本株がいかにダメダメだったかよく分かります。こんなデータを見つけると、つい「低迷が続くTOPIXに投資するのは情弱」とドヤ顔で言いたくなります。

ところが時間軸をもう少し伸ばしてみると、風景が少し変わってきます。1960年から2016年までの56年間の累積リターンを比較したグラフは、次のようになります。



まだS&P500の方がTOPIXを上回っていますが、それでもいい勝負になってきました。しかも、なんだかTOPIXの方が勝ってる期間の方が長いような気もしてきます。そこで今度は時間軸の終わりをずらして、1960年から1989年までの30年間で比較してみると、驚くべきことに次のようになりました。



日本株は素晴らしいですね。まさに“ジャパン・アズ・ナンバーワン”の時代が来そうです。この時代に米国株だけに投資する投資家がいたら、「いまどき低迷が続く米国株に投資してるなんて情弱だ」と日本株に投資している投資から笑われたのかもしれません(実際は、この直後の1990年にバブル崩壊による日本株の大暴落が始まります)。

もっとも、こういった比較はしょせんお遊びです。なぜなら、いまから1960年に戻って投資することは不可能だから。しかし、人間の一生は無限の歴史のある一定の期間でしか存在できないということも忘れてはいけません。ケインズが「長期にはみんな死んでいる」と言ったように、長期投資といえどもやはり個人は歴史の中のある一定期間しか投資できない。

だからこそ、いろいろな時間軸で過去を検証することは、ある期間にもっともリターンに優れる投資対象が、まさに「事後的」にしか認識できないということに気づくのに役立ちます。「未来のことは分からない」という投資の常識を確認するために、人間はこれほどの手間をかけなければならない悲しい存在なのです。

投資家にとって自分の投資期間が株価の歴史の中で、どの位置を占めることになるのかも、やはり事後的にしか分かりません。だから、過去において最適解だった投資対象が未来においても最適解なのかは、やはり分からないのです。その意味では、歴史の女神であるクレイオーの前では、すべての投資家が情弱なのです。

ただ、歴史の前で自分は情弱であると自覚する謙虚さは大切でしょう。私がインデックス投資において幅広い分散を心がけているのは、つねにそういった謙虚さを忘れたくないからでもあります。そして、「最適解」を唱える傲慢な投資家よりも、自分は歴史の前では「情弱」であることを認める謙虚な投資家に、クレイオーはきっと微笑んでくれるのではと信じています。

※冒頭の写真は、フェルメール作「絵画のアレゴリー」に描かれたクレイオー(引用:Wikipedia)
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