2016年7月20日

『週刊エコノミスト』2016年7月26日号は“買い”だ―森信親金融庁長官のインタビューは必読



今週発売の『週刊エコノミスト』2016年07月26日号が非常に面白いです。特集「ヤバイ投信 保険 外債」は定期的に取り上げられるテーマですが、注目は森信親金融庁長官のインタビューが3ページにわたって掲載されていることです。実力派の金融庁長官として知る人ぞ知る存在ですが、一般メディアに登場して日本の投資・運用業界に対する遠慮会釈のない批判を展開しています。これを読んで、あらためて金融庁が日本の投資・運用業界に対していかに厳しい見方をしているかがわかりますし、是正に向けた取り組みの本気度も理解できました。森金融庁長官のインタビューを読むだけでも、今週号は“買い”だとも思います。

ここ数年、金融庁の金融業界に対する監督方針が劇的に変化しました。2014年に「金融モニタリング基本方針」、15年の「金融行政方針」といった画期的な方針を打ち出し、とくにフィデューシャリーデューティー(受託者責任)という概念を導入することで、投資信託の回転売買の横行、複雑怪奇な商品設計と不透明な手数料水準など日本の投資・運用業界の問題点を抜本的に改革しようという姿勢を強めています。その動きを主導しているのが森信親金融庁長官だとされています。

その森金融庁長官が3ページにわたるインタビューに答えています。これを読むと森長官の問題意識が分かります。それは、政府が「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げてい久しいのに、日本ではいっこうに投資が一般化しないのはなぜかという問題意識です。これに対して森長官は次のように直截に原因を指摘します。
大きな問題としては、多くの金融機関が投資商品の販売を、顧客の資産形成より手数料稼ぎに重きを置いてやってきたことが挙げられるでしょう。(中略)サービス業では「消費者側」に立って考えることが当たり前なのに、「生産者側」の論理で金融サービスが提供されていたのです。
まったくその通りで、日本では昔から金融機関が個人投資家に対して無茶苦茶なことを繰り返してきたわけです。その象徴が森長官も問題視する投信の回転売買やボッタクリの手数料だった。そんな扱いを受け続けた国民の間で投資に対する信頼感がまったく醸成されず、いまだに「投資は怖い」「投資はギャンブル」といった感情が刷り込まれてしまったのは仕方がないことでした。しかし今回、金融庁長官自身が一般メディアでこうした問題点を直接指摘したという意味は極めて大きい。

森長官のインタビューは万事この調子で、遠慮会釈がありません。回転売買や複雑な商品設計への批判に加え、最近話題のラップ口座に対しても次のように指摘しています。
このラップ口座の手数料も結構高いんですが、手数料の多寡が問題でははりません。手数料をとるのであれば、それがいかなるサービスの対価なのかをきちんと示す説明責任を果たしてほしいとと思っています。
まったく立派な見識です。ラップ口座に限らず手数料で問題になるのは、その多寡ではなく合理性です。いっけん穏やかな森長官の言葉からは、かえって「金融庁としても、やらずボッタクリは承知せんぞ」という強い意志が垣間見え、非常に印象的。

また、金融庁は最近、銀行窓口で販売される変額年金保険や外貨建て生命保険の手数料開示を求めて地銀を中心とした銀行業界と激しいバトルを展開しているとされていますが、この問題については極めて厳しい内容を語っています。
私は直接業界と協議していませんが、銀行側から「マイナス金利で貸し出しによる利ざやが縮小する中、手数料の高い保険商品が収入源になっている。手数料開示によってこうした保険商品の販売に影響が出るのが心配だ」という声が上がったと聞きます。しかし、考えてみれば、手数料が開示されたら売れなくなるような商品を、どうして顧客に売っているのか。これは手数料を開示する、しない以前の問題です。

この問題は当初、10月にも手数料を開示する方向で調整が進められていましたが、銀行業界の抵抗によって先送りされたとされていました。ところが実際はまったく逆で、銀行業界の非協力的な態度に激怒した森長官が、いったん仕切り直した上で、より広範囲の手数料透明化の仕組み作りを進めることになったと一部で報道されています。

銀行窓販の手数料を開示しない姿勢に森信親金融庁長官が激怒した「地銀はまだそんなことを言ってるのか!」(産経新聞)

だからインタビューでも手数料の開示を含めた金融機関と顧客の情報の非対称性を解消するメカニズム作りを「金融審議会(金融担当大臣の諮問機関)などの場で論議していくことになるでしょう」と断言しています。銀行というのは基本的に規制産業ですから、お上を本気で怒らせたとなるとひとたまりもありません。森長官の剣幕を知ったメガバンクはすぐさま白旗を挙げてしましました。

大手銀行5社 年明けに保険手数料開示へ(産経新聞)

こういう動きを見ていると、森長官の実行力というのは大したものです。同時に、マイナス金利によって収益力低下に悩む銀行に対しても、本業を極めることを要請しているのです。インタビューでは次のように語っています。
興味深いことに、経済環境はどの銀行も同じはずですが、貸し出し業務の収益の落ち方は銀行によって違います。取引先との関係を密に築き、顧客企業のニーズに応える形で資金需要を掘り起こしている銀行は、マイナス金利におびえてはいません。こうした環境下でも安定的で持続可能な収益基盤を作っている銀行が現に多く存在します。
このあたりの事情は、やはり森長官を中心とした金融庁の銀行に対する最近の金融行政のあり方の変革を追った『捨てられる銀行』が詳しいです。



いずれにしても、現在の金融庁が目指している投資・運用業界のあり方というのは、森長官の次の言葉に集約されるでしょう。
顧客が満足できる付加価値を創造できれば、それが持続的な銀行の収益につながるのです。
つまり、金融と投資を通じて資本の好循環を作りだし、持続的な価値創造につながる事業をしろということ。そこには深い思想・理論的背景があります。フィデューシャリーデューティーの導入も、銀行業務に対する改革要請も、すべてここにつながっている。そういう意味で、本当に首尾一貫している。そいうことを理解する上でも今回のインタビューは非常に役に立つ内容でした。

また、そのほかの特集記事も読み応えがありました。深野康彦さん、朝倉智也さん、後田亨さんといったおなじみの有識者が「ファンドラップ」「毎月分配型投信」「テーマ型投信」「貯蓄性保険」「外貨建て・変額保険」などについて忌憚のない意見を書いています。取材記事も「“4階建て”投信の末路」といった内容があり、非常に面白かった。こうした内容も含めて、『週刊エコノミスト』2016年07月26日号は“買い”です。

【関連記事】
畏るべきかな、森信親金融庁長官―「静的な規制から動的な監督へ」講演は必読
スポンサードリンク