2016年5月8日

“不動産投資は楽して稼げる”なんて考えてたらあかんよ―イヤな感じがする「チャリンチャリン投資」という言葉



不動産投資によって家賃収入を得ることを“チャリンチャリン投資”などと称する人がいます。積立投資を“コツコツ投資”と呼ぶのに対応しているわけですが、なんとなくイヤな感じがしました。というのも、コツコツ投資は比較的簡単に実行できる投資方法ですが、借入までして不動産に投資するチャリンチャリン投資は、非常にハードルが高いからです。なにより不動産投資が、いかにも”楽して稼げる”投資手法であるかのような印象を広めているような気がして、それは実際に苦労と努力を重ながら不動産投資している人に失礼ではないかと思ったのです。「“不動産投資は楽して稼げる”なんて考えてたらあかんよ」と言いたくなりました。不動産投資には、不動産投資が簡単だと考えている人には想像もつかないリスクがあるのです。

不動産投資というのは、株式や債券、あるいはREITとも根本的に異なるリスク管理が必要となる投資手法です。それは、決して楽して稼げるようなものではありません。この点について、相互リンクいただいているWATANKOさんが、実体験を踏まえて報告してくれています。

【不動産投資 DEAD OR ALIVE 第0話】はじめに(資産運用でスーパーカーを手に入れよう!)
【不動産投資 DEAD OR ALIVE 第1話】契約書なんてただの紙切れ。頼りになるのはお金だけ(同)
【不動産投資DEAD OR ALIVE 第2話】物件の表面利回りに惑わされてはいけない。実質利回りの予測を忘れずに(同)
【不動産投資DEAD OR ALIVE 第3話】いくら儲かるかわからないけれど、それでもやってみますか(同)
【不動産投資DEAD OR ALIVE 第4話】貴方は賃料未払いの店子に冷徹になれますか(同)

不動産投資が簡単で楽に稼げる投資手法だと勘違いしている人は、WATANKOさんの文章を熟読玩味するべき。不動産投資の難しさと、苦労の多さが分かります。リスク管理のために、ときには不人情なこともしなければならない気苦労が、それに悩むWATANKOさんの人柄の良さと合わせてリアルに紹介されています。なぜ不動産投資は、これほどまでに難しく、気苦労が多いのか。それは、つきつめると不動産投資は貸し手の立場が弱いことに起因するのでしょう。

株式や債券への投資の場合、資金の貸し手である投資家は、借り手である企業・団体よりも権利が強い。なぜなら、会社法や金商法で貸し手たる投資家の権利が保護されているから。ところが不動産投資の場合、この関係が逆転します。つまり、借地借家法によって借り手である店子の権利が保護される一方、貸し手である家主の権利は制限されている。しかも、家主は自分の権利が侵されたとき、自力救済が禁止されているので実害を防ぐ手段が限られてしまう。

もうひとつ不動産投資には株式・債券投資と大きな違いがあります。それは株式・債券は基本的に個人(投資家)と企業・団体の間のC2B取引であるのに対して、不動産投資は、個人対個人すなわちC2C取引になるケースが多いということです。企業・団体は社会的存在ですから、存立の前提となる法律や契約を破ることは原則としてありません。しかし、個人は社会性を失っても生存できるので、平気で法律や契約を破る人間が存在するのです。こんな人間が店子になると、家主の権利は一方的に侵され、大きな損害を被ってしまいます。

ひとつ例を挙げます。私が小学生のころ、近所に数棟の長屋(アパートじゃないです。本当に昔ながらの長屋です)を営んでいる地主のおばあさんがいました。長屋ですから入居者はほとんどが低所得者でした。なかには何年にも渡って家賃を滞納している借家人もいました。そのおばあさんは、あまり強硬に督促もできなかったのです。当時は借地借家法の前身である借地法、借家法の時代でしたから、いまよりもさらに店子の権利が強かった。

しかし、ついにおばあさんは堪りかねて、家賃滞納の店子の退去を求めて裁判を起こします。もちろん100%勝てる裁判なのですが、当然ながら判決までに時間がかかります。そこで驚くようなことが起こりました。なんと裁判が争われている間、おばあさんの家の周囲には、「死ね!クソババ」といった罵詈雑言を書いた張り紙がしょっちゅう張られるようになったのです。もちろん、誰の仕業かはわかりません。

不動産投資には、こういった意外なリスクもあるのです。もちろん、店子の権利を保護するのが悪いといっているのではありません。家主と店子では本来、力関係に圧倒的な差がありますから、この両者を対等な契約関係とするためには、法的に店子を保護するのは当然でもあるわけですから。しかし、こうした実情を理解していれば、不動産投資は決して簡単なものではないということは分かるはずです。

私は、不動産投資というのは非常に立派な投資手法だと思っています。とくに一定以上の豊富な資産を持つ人にとっては相続税など税制上の問題からも必要な面が多々あります。また、自宅以外で不動産を所有している場合、固定資産税の支払いのために不動産投資をせざるを得ない場合も多いです。しかし共通しているのは、不動産投資とはかなりの努力と苦労を重ねて初めて継続的に実行できるものだということです。不動産投資をしている人は、決して楽して稼いでいるわけではない。

株式や債券、そいてREITへの投資はリスク許容度の範囲なら、かなり気楽に行えるものです。しかし、不動産投資は、たとえリスク許容度の範囲でも大変な努力と苦労を重ねて初めて成功できる投資手法でしょう。だからこそ、真摯な気持ちで取り組まなければなりません。チャリンチャリン投資などといった軽薄なキャッチフレーズに乗せられて、「楽して稼げそうだ」などと考えて足を踏み入れる人は、まず間違いなく失敗するのではないでしょうか。それだけに、チャリンチャリン投資などという誤解を招きそうな言葉の軽さに、なんともイヤな感じがするのです。

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