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2016年5月28日

インフレとデフレ、資産運用はどちらに備えるべきなのだろう



日本経済の長期低迷に対して「デフレ脱却」の掛け声が続いていますが、その道のりは、いまだ厳しいようです。ロイターの調査によると、日本企業の8割がデフレ逆戻りへの懸念を強めているとか。

ロイター企業調査:8割が「デフレ逆戻り」懸念 増税や円高で(ロイター)

やはりデフレの要因は複合的なので一筋縄では解決しない。一番問題なのは、デフレが長らく続いたことで日本人の頭の中で「デフレが普通の状態」になってしまっていることかもしれません。ところが、ここにきて日本が今後、ハイパーインフレになるという有識者の指摘があります。

ヘリコプターは離陸済み、行き着く果てはドル1000円か-野口悠紀雄氏(ブルームバーグ)

1ドル=1000円とはすごい。ただ、こうした意見はちょっと真面目に聞いておいた方がいい。いささかリップサービスが過ぎたとは思いますが、野口先生は“1ドル=50円”説の人とはレベルが違いますから。いずれにしてもデフレとインフレ、どちらに進んでもおかしくない条件がそろっているわけです。では、資産運用なるものは、インフレとデフレ、どちらに備えるべきなのでしょうか。

そもそも資産運用とは何のためにやるのかということを考えるとき、とても印象に残っているのが、以前どこかで聞いた澤上篤人さんの言葉です。澤上さんはピクテ銀行の日本法人代表だったこともあり、欧州のプライベートバンクにも詳しい。澤上さん曰く「欧州のプライベートバンクは、いったい何のリスクから顧客の資産を守ろうとしていると思う?」。その答えは、第1番目が「戦争」だそうです。これには「なるほど」と思いました。戦争になったら、場合によっては別の国に避難したり亡命したりする必要がある。そこでスイスなど中立国のプライベートバンクに資産を預けておけば、体ひとつで国外脱出しても安心ということです。こういう発想は、なかなか日本人にはありません。いかにもしょっちゅう戦争が起こり、でも陸続きだから比較的容易に海外逃亡できる欧州人ならではの大陸的発想です。

では、2番目はなんでしょうか。それは「インフレ」だと澤上さんは指摘していました。いくらお金持ちでも、インフレになれば一発で資産が目減りしてしまう。本当のお金持ちは、とにかくインフレを恐れている。ようするに本当のお金持ちの資産運用といのは、儲けることではない。インフレに負けないポートフォリオを作ることが資産運用の大部分だったりします。

これもよく考えると当たり前なのでしょう。というのも、歴史的に見てデフレとインフレでは、進行の速度がまったく異なる場合が多いからです。そういえばマネックス証券の松本大社長もどこかで話していました。「過去の歴史を振り返ると、じつはインフレの期間よりもデフレやディスインフレの時代の方が長い。ところは変動幅で見ると、インフレの方が圧倒的に大きい」。デフレもインフレも悪化すれば経済が破綻するのですが、そこに至るプロセスが異なる。デフレはジワジワと死に至る病であるのに対して、インフレは即死する病ということです。

そう考えると、資産運用というのは基本的にインフレ対策としてやっておかなければならないということです。というのも、デフレになれば対処療法で時間稼ぎができるけど、インフレになると事前の対策ができていないことには対処しようがない。急に1ドルが50円になったり1000円になったりすることはないと思うけれども、1ドル=70円台は実際に経験しています。そして、1ドルが200円台だった時代もそんなに遠い昔ではなかったことを知っておくのは大切なことでしょう。1ドルが50円になれば、日本人は普段から円をたくさん持っていますから、しばらくはしのげます。でも1ドルが1000円になると、外貨建ての資産を持っていない人は即死する。どちらも不幸なことになるけれども、不幸の度合いが異なると思う。小さな違い、それが困る。

そして、インフレ対策として有効な投資対象が株式です。自国通貨暴落に備えるなら海外株式への投資も欠かせません。ここに国際分散投資の意味がある。資産をいろいろな形で、いろいろな通貨で“持っておく”ことが、インフレや自国通貨暴落に対する自衛策の王道でしょう。昔はそれをプライベートバンクとかに頼むしかなかったのですが、現在では個人投資家でもある程度は独力で実行可能なのですから、幸せな時代になったものです。投資というのは“殖やす”ことだけではなくて、“守る”ためのものだということを理解することは、とても大切なことに感じます。

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