日本でも人気のある高利回り債券(ハイイールド債券)ですが、ここのところの原油安で格付けの引き下げやデフォルトが相次いでいるようです。そんななか、米国の有名投資家であるカール・アイカーン氏が不吉なことを言いだしました。なんでも「ハイイールド債のメルトダウンはははじまったばかりだ」そうです。
「ハイイールドのメルトダウン」は始まったばかり-アイカーン氏(ブルームバーグ)
もともとハイイールド債は低格付けの債券であり、ジャンク債ともいわれていますから、経済情勢が一変すると容易に“メルトダウン”します。だから通常の債券投資とは、まったく異なる考え方で投資するべき分野ですし、そもそも個人投資家がそれほど熱心に投資するべきカテゴリーではありません。ところが、高利回りに魅せられて日本でもハイイールド債に投資するファンドが意外と資金を集めています。ハイイールド債が、どういったものかわからずに投資している人も多いようなので、この先、大きな損失が出ないか心配になってきました。
世界のハイイールド債券市場で大きなウエートを占めるのは米国のハイイールド債券ですが、これはシェールガス関連の新興企業の社債などが多い。そのため最近の原油安で非常な打撃を受けており、債券価格の暴落やデフォルトが増加しています。このためジャンク債(ハイイールド債)投資家はすでに2008年以来最悪の低迷で打撃を受けているそうです。
こうしたなか、運用会社であるサード・アベニュー・マネジメントが12月9日に7億8800万ドル(約950億円)規模のクレジットミューチュアルファンドからの資金引き出しを凍結すると発表したことで、事態の深刻さが浮き彫りになったそうです。こうした状況をブルームバーグの記事は次のように伝えています。
米ウォール街の有名企業が投資信託の払い戻しを凍結し投資家を驚かせて以後、ジャンク債市場はただ泥沼化の一途をたどっている。高リスク債の価格はここ6年の間で見たことのない水準まで下げたが、資産家で投資家のカール・アイカーン氏は、売りが始まったばかりだと言う。アイカーン氏はジャンク債の値下がりに賭けたポジションを作っているので、ある程度はポジショントークとして割り引いて考えないといけないのですが、それでも最近のハイイールド債券の市況は非常に厳しいものがあります。記事にあるようにデフォルト(債務不履行)に備えた保証料を測るクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、マークイットCDX北米高利回り指数のリスクプレミアムも12年12月以来の高水準となっています。
高利回り債の値下がりに賭けているアイカーン氏はツイッターへの11日の投稿で、「ハイイールドのメルトダウンは始まったばかりだ」とコメントした。
原油安を原因とするハイイールド債の低迷は2016年も続くとの見通しも強まってきました。
焦点:2016年の最大のリスクは引き続き原油価格(ロイター)
こうなってくると、アイカーン氏の不吉な言葉を、たんなるポジショントークとして片づけるのが難しくなります。なにしろロイターの記事が伝えるように、ここにきて「原油1バレル=20ドル台」といった予測すら登場したくらいですから。本当に20ドル台まで下落するのかは分かりませんが、もしそうなればシェールガス関連企業の打撃は計り知れません。さらなるハイイールド債券のデフォルトが起こるでしょう。
そんなわけで、ハイイールド債券に投資している人は、しばらく注意が必要でしょう。ときどき「債券は価格が下落して金利上昇すれば、かえって高利回りで再投資できるから有利」とか「債券価格が下落しても満期が近づくにつれで回復するから大丈夫」などという人がいるのですが、これは高格付け国債など投資適格債券についてあてはまる話であり、ハイイールド債券では、そんな簡単には話が済みません。なぜなら、デフォルトしてしまえば、その債券はほぼ全損が確定しますから、再投資も満期による元本回復もありえないからです。このあたりにハイイールド債券投資の難しさがあり、やはり個人投資家が熱心に投資するべきような対象ではないという理由があるのです。