よく「投資は余裕資金で」と言われますが、そもそも余裕資金とは何なんでしょうか。それは、究極的には“無くなっても構わないお金”のことです。もちろん、実際はお金がなくなると困るわけですから、正確には“無くなっても生活に支障をきたさない資金”ということになります。だから、リスク許容度の範囲内で投資するということは、究極的には無くなっても生活が困らない資金で投資するということです。
それぐらい厳しい感覚を持っていれば、多少の下落で含み損を抱えても関係ありません。たとえ投資資金が全損となっても、生活に支障をきたさないものです。例えばサラリーマンの場合なら、リスク資産が全損となっても、翌月には給料が入ってきますから、それで生活すればいい。そこから再度、貯金を始めて、投資に再エントリーするための種銭を作ることもできます。だから、普通は投資で人生が破綻するようなことはありえないのです。
ところが実際は投資の失敗で人生が破滅する人が少なくありません。そうなる原因はひとつだけです。それは、「借金をして投資する」ことです。自前の資金で投資していれば、どんなに損をしてもゼロにしかなりませんが、借金をして投資すればマイナスの状態に落ち込む危険性がある。そうなると、身動きがとれなくなります。たとえ給与収入があっても、それを借金返済に回さなくなれば、生活は徐々に破綻に向かっていくでしょう。最終的に自己破産するようなことになれば、完全に人生終わりです。日本は再挑戦が難しい社会ですから、一度でも自己破産するようなことになれば、よほど運と実力を持った人以外は、残りの人生を社会の底辺で過ごすことが確定してしまいます。
「借金をして投資する」ということが、どれほど異常なことか普通ならすぐわかるものです。例えばサラ金やカードローンで借り入れた資金で株を買うという人を見れば、多くの人は「異常」だと思うでしょう。ところが不思議なのは、株の信用取引やFXのレバレッジ取引については「異常」だと思わない個人投資家がいること。これが大きな落とし穴です。株の信用取引もFXのレバレッジ取引も、じつは「借金をして投資している」ことに変わりない。それを「異常」なことだと思わない個人投資家がいることは、じつに「異常」なことです。
よく「投資は怖い」という人がいますが、普通に自前の余裕資金を使って現物取引をしていれば、それほど怖くありません。そもそも「投資は怖い」と言われるときに紹介される例は、ほとんどが信用取引やレバレッジ取引で損失を被ったケースです。でも、それは「異常」な方法なのです。異常な方法を採用すれば、自動車の運転だってハサミの使い方だって怖いに決まっています。
とはいえ、個人投資家を信用取引やレバレッジ取引に駆り立てるのは結局、「早く儲けたい」という気持ちなのでしょう。でも、この焦りこそが投資の最大の敵です。手っ取り早く資産形成する方法などありません。手っ取り早く儲けようという発想は、しょせんギャンブルの発想ですから、もう投資や資産形成とは関係なくなる。とにかく焦ってはいけない。急いではいけないのです。
「然し無暗にあせつては不可ません。たゞ牛のやうに圖々しく進んで行くのが大事です」(夏目漱石が芥川龍之介と久米正雄に送った手紙の一節)。