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2015年6月14日

『全面改訂 ほったらかし投資術』‐“これなら自分でもできる”と勇気づけてくれる貴重な1冊



山崎元氏と水瀬ケンイチ氏の全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)が刊行されました。さっそく一読。旧版同様に“これなら自分でも投資ができる”と勇気づけてくれる貴重な1冊です。旧版と比較すると内容がやや丁寧・平易になり、より初心者でもとっつきやすい記述が増えているのも特徴でしょう。また、債券投資についての考え方やインデックス投資における出口戦略などかゆいところに手が届く内容は、実際にインデックス投資を行っている著者ならではだといえます。

インデックス投資について書かれた本は過去にいくつもあるのですが、旧版を含めてこの本が貴重だったのは、実際にインデックス投資を実行している個人投資家による体験的解説書だったことです。多くの投資本は、あくまで専門家によるものがほとんどですが、日本は投資の専門家に対する個人投資家の信頼感が薄い。どこかで「はめ込まれるのではないか?」という疑心暗鬼を捨てきれないのです。その点、本書は実際にインデックス投資を実行している個人投資家が自分の体験をもとにインデックス投資の具体的な手順や心構えを実践的に解説していることが画期的だった。これを読んで「これなら自分でもできそう」と勇気づけられ、インデックス投資の世界に入っていった人は少なくないと思います(私自身がそうでした)。

さて、内容については実際に本書を読んでもらいたいと思いますが、いくつか感想を記しておきます。まず、旧版もそうでしたが、インデックス投資の具体的な手順や心構えについてこれだけ詳しい内容を含む本はあまり例がないということ。金融機関の口座開設方法から具体的な商品選択の基準までじつに細かく解説されているのは相変わらずです。このあたりは実際にインデックス投資を実行している著者ならではでしょう。

旧版と比較すると全体的に記述が丁寧、平易になっています。旧版では「理論編」を山崎氏、「実践編」を水瀬氏が分担執筆する形式でしたが、改訂版ではこれが一本化され、完全に共同執筆の形になっています。両者の見解が分かれるところは「山崎は~と考える」「水瀬は~と考える」といったふうに両論併記されています。この形式の是非については好みの分かれるところでしょう。どちらかというと旧版にあった理論編の内容がやや薄味になってしまい、インデックス投資上級者には物足りないかもしれません。しかし、もともと本書は入門書ですから、これからインデックス投資について学ぼうとしている人にとって親切な内容になったともいえます。

山崎氏と水瀬氏の間で生活防衛資金について意見が分かれている点も興味深い。山崎氏の「生活費3カ月説」に対して水瀬氏は「生活費2年分説」です。このあたりは読者によっても意見が分かれる点ですが、私自身は水瀬氏同様に生活費2年分説を支持しています。なぜなら私が零細企業勤務の身であり、いつ勤め先の倒産や給料カットに直面するかわからないから。実際にリーマン・ショックのときにボーナス大幅カット・賃下げを体験した身としては、生活費3カ月分では安心できません。

また、旧版に比べて確定拠出年金(DC)やNISAについての解説が手厚くなっています。政府がDCやNISAといった制度を充実させているのは、将来の公的年金の(実質的)縮小に対するアリバイ作りの可能性があるという山崎氏の指摘は極めて重要。とくにDCは資産形成の最初の選択肢として検討すべきものですから、本書で丁寧に紹介されていることは親切です。

ETFについてはリレー投資に対する力点がやや低下しています。背景には通常のインデックスファンドのコストがここ数年でかなり低下したことで、あえてリレー投資をしないという選択肢も十分に合理的になってきたということがあるようです。同様にリレー投資する場合でも、投資対象として国内ETFの存在感が大きくなっています。これもここ数年で国内ETFがずいぶん充実したからでしょう。逆に海外ETFへの投資は外貨調達や税務処理の手間を考えると「インデックス投資上級者向け」とはっきり指摘している点は賛成です。

個人的に興味深かったのは、債券投資についての考え方です。やはり外国債券不要論なのですが、日本人は円という特殊な通貨で生活している以上、どうしても為替リスクが大きくなるので、あえて外国債券への投資は薦めないという姿勢は妥当です。外国債券に投資するのは、よほど為替の仕組みがわかっている人でないと火傷する可能性が高い。投資においてもっとも避けなければならないのは理由もよくわからずに損をすることですが、投資初心者が外国債券に投資すると、そうなる危険性が高い。それなら最初から薦めないというのは立派な見識です。

将来の資産取り崩し、いわゆる出口戦略についてもページを割いているのにも好感をもちました。これは実際にインデックス投資を実行している人でないと問題に対する実感がわからないからです。「定額解約ではなく定率解約を」という指摘は非常に重要です。また、「インデックス派VSアクティブ派「神学論争」でのふるまい方」は、とくに投資ブログなどをやっている人は必読でしょう。喧嘩はよくない。みんな、仲良く! そのほか「商品ガイド編」は良質なインデックスファンド、国内ETF、海外ETFの情報がアップデートされており、インデックス投資初心者には大いに参考になるでしょう。

あと、特別付録の「ETF運用の現場を知りたい!」は非常に面白かった。山崎、水瀬両氏が日興アセットマネジメントの今井幸英ETFセンター長にインタビューしたものですが、ETFの運用の実態などがよくわかり、いろいろと目からウロコの内容がありました。(追記:ロシア株のくだりはTwitterでもちょっと盛り上がりました。)

なにより私が本書を好きな理由は、著者が“無理に投資なんかしなくてもいい”“投資よりも大切なことがある”というスタンスを明確にしていることです。われわれ個人投資家には本業があるし、なによりも大切な家庭生活がある。投資なんかにのめり込んで、生活の質が低下するようでは本末転倒です。そういう意味で普通の庶民の投資術として「ほったらかし」というのは極めて戦略的であり批評的な方法論です。「ほったらかしでは儲けることことはできない」といって本書を批判する人がいますが、そもそも資産形成とは「儲ける」「儲けたい」という気持ちから自由になるために行うものではないでしょうか。そういった自由な精神を得るために一歩踏み出す勇気を与えてくれるという意味でも、やはり本書は非常に貴重な1冊だといえます。

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