最近になってインデックス投資を始めた友人が何人かいるのですが、好調な相場を背景に順調にリターンが上がっているものですから、妙に強気になる人も出てきました。「そのうち相場は下がるよ」とアドバイスしているのですが、やはり下げ相場を知らない人は知らず知らずのうちに根拠のない楽観論に支配されがちなのは困った問題です。ついには「次はIPO投資に挑戦しようかな。だって、ほとんどリスクがないじゃないですか」といわれた時には、思わずギョッとしました。IPO(新規公開株)投資はリスクが少ないなど、誰が言っているのですか? 株式投資においてノーリスクの売買など存在しません。「IPO投資はリスクが少ない」などといったバカげた言説が登場するようになったということは、いよいよ末期症状です。恐らく今後、IPOを通じた金融機関による個人投資家へのハメ込みが増えてくる予感を強く感じています。
たしかにIPOは主幹事の証券会社が上場を成功させるために実際の企業価値からディスカウントした公募価格を設定するケースが多いですから、上場すぐに初値で売れば容易にキャピタルゲインを得るケースがあるのは事実。だから、抽選に当たって公募価格で株を入手すれば、かなりの確実で利益が得られると主張する人も少なくありません。なかには割りのいい宝くじのようなものだという人さえいます。
ところが、こういった考え方の不思議な点は、主幹事である証券会社による対象企業のバリュエーション分析を簡単に信用し、公募価格がディスカウントされているとナイーブに信じていること。主幹事はほとんどが大手証券会社が担当しますが、大手証券会社って、そんなに信用できるものなの? 私はいろいろと大手証券会社にハメ込まれてきた人を知っているので、とてもナイーブに信用することができません。
そもそも個別株投資の基本は、“安ければ買う”の1点。だからバリュエーションがもっとも大事です。自分で納得したバリュエーションでない限り、とてもその株を買おうという気にはなりません。ところがIPO投資を推奨する人のなかには、まったくバリュエーションを考慮しないケースがある。ましてや宝くじのようにIPOをとらえるのは、もう投資とは別の次元の問題です。
こんな状況では、そのうち大幅な公募価格割れなどでやけどする人が出てきてもおかしくありません。すでに不吉な前兆も出ているような気がします。例えば“gumiショック”。スマートフォンゲームベンダーのgumiは1月のIPOで公募価格3,300円に対して初値3,300円。その後はずるずると値を下げたどころか、上場わずか2カ月半で業績予想を下方修正しただけでなく、15年4月期は黒字予想から4億円の営業赤字予想となり、株価はさらに暴落しました。しかも経営陣や上場前から出資していたベンチャーキャピタルが、さっさと株を放出していたというのですから一般株主をなめています(「上場ゴール」の最悪IPO“gumiショック”の波紋)。
さらに不吉なのは、東京証券取引所も最近のIPOの状況に対して目を光らせ始めたこと(IPO審査の厳格化要請 日本取引所、証券会社などに)。マーケットの胴元が声を上げるぐらいですから、実態は相当ひどくなっていると考えて間違いない。東証の動きの背後には、金融庁の意向すら働いているのではないかといううがった見方さえしてしまいます。
もちろん、IPOから順調に成長する企業も存在します。本当に投資に値すると判断できたなら、IPOで株を所有することは間違いではありません。でも、それは例えるなら相撲部屋に入門した新弟子が三段目に昇進したあたりでタニマチになるようなもの。ある意味、道楽と割り切って投資するべきです。少なくとも宝くじのような感覚でIPOを利用していると、そのうち証券会社のハメ込みの餌食になる危険性があります。
結局、投資対象の“価値”について自分で判断できないものには、軽々に投資するべきではない。バリュエーションの難しい投資対象の代表がIPOです。だから、バートン・マルキールもチャールズ・エリスもジェレミー・シーゲルもIPO投資のリスクをたびたび指摘してきました。「IPO投資はリスクが少ない」などというのは、極めて危険な発想だといえるでしょう。