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2015年4月6日
『株式投資の未来』―個別株投資虎の巻の決定版
紹介するのもいまさらですが、ジェレミー・シーゲル博士の株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらすは“個別株投資虎の巻”の決定版ともいえる名著です。最近、再読して改めてその思いを強くしました。現在、日本の個別株は銘柄選択が非常に難しくなってきました。リーマン・ショック後のように全銘柄が割安という状況ではないからです。では、どうやって銘柄を選べばいいのか。シーゲル博士は「バリュエーションは、どんなときも重要だ」と指摘しています。
本書が衝撃的なのは、成長する株が必ずしも高リターンを保証しないということを「成長の罠」というユニークな名称で指摘したことです。急成長する企業の株は高いリターンが望めそうですが、じつは個人投資家がその株にアクセスできるようになった段階で、すでに成長への期待が株価に(ときには過剰に)織り込まれているため、ほとんどの場合が高値掴みとなり、実際に成長の果実を得るのは創業者・ベンチャーキャピタル・投資銀行であり、個人投資家は損を引き受けることになる。
では、個人投資家が高いリターンを期待できる銘柄を見つけるにはどうするべきか。シーゲル博士は「投資家リターンの基本原則」を理解することだと指摘します。投資家リターンの基本原則とは
投資家リターン=増益率-投資家の期待
です。例えばA社は10年間で10%の増益を投資家から期待されている。B社は1%の増益しか期待されていない。この場合、賢明な投資家が買うべき銘柄はB社となる。なぜなら、仮にA社が10年後に15%の増益を達成し、B社が2%の増益となった場合、A社は投資家の期待の1.5倍の成果を上げたことになるが、B社は2倍の達成率となります。するとB社の方がリターンが大きくなる可能性があるという考え方です。そして投資家の期待を表す指標がPER。だからPERが高すぎる銘柄は、大きなリターンが期待できないという理論構成は、バリュー株投資において非常に重要なポイントなのです。
ここで注意すべきは、投資家リターンは、キャピタルゲインとインカムゲインを合わせたトータルリターンということも忘れてはなりません。つまり配当の重要性です。長期投資において配当はリターンの重要な源泉。しかも、配当できるということは企業が実際にお金を持っているということ。どんな業績予想よりも信用できるという指摘は極めて重要です。こうしたことを徹底した実証研究で明らかにしたところに、本書の面白さがあります。
ほかにも目から鱗の指摘が盛り沢山なのが本書の魅力。断言しますが、個別株投資をするなら必読の書といえます。私の場合、この本を読んでから自分の個別株投資戦略が固まりました。つまり、低PER、高配当を銘柄選択の基準とし、さらに低PBRと財務内容の健全さ(自己資本比率)を考慮します。さらに“負け組産業の勝ち組企業”というのも面白い狙い目でしょう。
本書のもう一つの眼目は「世界的解決」です。先進国が高齢化・人口減少によって世界経済を牽引できなくなった時、世界経済と株式市場は誰によって担われるのかという疑問に対して、シーゲル博士は新興国がその役割を担うと指摘しています。先進国の高齢者は新興国の若者の生産・消費活動からリターンを得るということ。
しかし、ここには極めて重要なポイントが隠されています。先進国の老人が新興国の若者からリターンを得るためには、その権利が必要だからです。その権利はどこから発生するのか。それこそ新興国でも活動するグローバル企業の株式を保有することにほかなりません。世界経済における生産・消費の中心が新興国に移ったとき、株式を持たない先進国の老人はどうなるか。新興国が生み出す富の移転を(株式売却益や配当といった形で)受けることができません。それは非常に厳しい現実に直面する可能性が高い。だから先進国の国民こそ国際分散投資を行う必要性があるというのが私の考えなのです。
本書は、そういった投資に関するより根源的な問題にも示唆を与えてくれます。その意味でも投資家必読の一冊といえるでしょう。
(なお、同じ著者による株式投資 第4版も極めて重要な1冊です。なぜ長期投資が重要なのかを、やはり徹底的な実証研究で解き明かしてくれます。)