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2015年4月23日

アベノミクスを復習するためのブックガイド

日経平均株価が22日、ついに終値で2万円を超えました。15年ぶりだそうです。15年前といえば、私が大学院生だった頃ですから、はるか昔のような気がします。また、春闘では賃上げが続いています。私が勤める中小零細企業でもベースアップがあったくらいですから。失業率も低水準となり、おそらく自然失業率に近いところにまで低下しているとさえいわれています。いろいろ言われながら、ここまでくればアベノミクスも大したものだと感嘆せざるを得ません。そもそもアベノミクスとは、どういったメカニズムだったのでしょうか。改めて復習する必要がありそうです。そのための私的なブックガイドを挙げてみました。

アベノミクスの“第1の矢”は異次元金融緩和だったわけですが、そもそも金融緩和がなぜデフレ脱却に効果があるのかというリフレ派の論理構成を理解するためには、近代経済学の最低限の理論を理解する必要があります。もっとも簡便な入門書は、いまは日銀副総裁を務める岩田規久男氏の経済学を学ぶ (ちくま新書)マクロ経済学を学ぶ (ちくま新書)です。やや古い本ですが、近代経済学の理論を素人にも分かりやすく説明してくれています。もう少し踏み込んで、デフレと円高がどれほど日本経済に有害だったかという岩田氏の主張を理解するためにはデフレと超円高 (講談社現代新書)が参考になるでしょう。







日本経済が長期低迷したメカニズムを分析した上で、なぜいまアベノミクスが登場したのかを総合的に解説しているのが片岡剛士氏のアベノミクスのゆくえ~現在・過去・未来の視点から考える~です。アベノミクスに基本的に同意しながら、原発問題に冷静に踏み込んだことと、安倍政権の所得再分配政策の弱さを指摘している点が重要です。



アベノミクスが特殊な政策ではなく、経済学の最前線では十数年前から提唱されていたオーソドックな政策だということを指摘しているのがノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏のそして日本経済が世界の希望になる (PHP新書)。タイトルはふざけていますが、中身は真面目なインタビューです。クルーグマン氏は「インフレ目標2%でも足りない、4%にしろ」といっていますから、なかなか過激です。



コーヒーブレイクとして若田部昌澄氏の経済学者たちの闘い―脱デフレをめぐる論争の歴史も挙げておきたい。本編は歴史上の経済学者たちの学説史的雑学本ですが、増補されている「リフレ戦記」には、ちょっと文学的に心打たれました。まだ日本でリフレ派がトンデモ扱いされていた時代から、たった1人で辻説法的にリフレ政策の必要性を唱えていたある経済学者が登場します。日本の経済関連の論壇には、それこそ“ハルマゲドン経済学”とでもいうしかないトンデモ本や主張が幅を利かせていますから、こういった真摯な態度で学説を主張する人の姿を見ると感動します。これを読んで、私は“文学的”にリフレ派にシンパシーを感じました。



当然ながらリフレ派とは異なる視点からの理解も必要です。デフレの構造と金融緩和の問題点をテクニカルな部分からも指摘した本としては、池尾和人氏の連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析が充実した内容です。講義形式なので読みやすい。吉川洋氏のデフレーション―“日本の慢性病"の全貌を解明するもユニークな本。デフレの要因は日本における「賃金の下方硬直性の弱さ」という指摘に一瞬、ハッとする。実感的だからだ。でも、なんだかモヤモヤしてくる。原因と結果、結果と原因の関係が混乱しているような…。じつは本書を読んで感じたモヤモヤ感から、いろいろな本を読むきっかけになりました。





異次元金融緩和の出口戦略まで踏まえた考察としては、以前にも紹介した翁邦雄氏の日本銀行 (ちくま新書)が簡便です。最近、より本格的な本として経済の大転換と日本銀行 (シリーズ 現代経済の展望)が刊行されました。ただ、こちらはまだ読んでいないので論評は避けます。





最後に、とにかく気合いを入れてアベノミクスを批判したい人には最近出た浜矩子氏の国民なき経済成長 脱・アホノミクスのすすめ (角川新書)があります。この本を紹介するのは、半分は冗談ですが、半分は冗談ではありません。浜氏は学者ではなく金融機関に勤めていた実務家ですから、理論的には全く参考になりません。しかし、実務家独特の勘というものがあります。これはあまりバカにしない方がいい。アベノミクスの対する直観的な不安を独特の嗅覚で感知し、増幅しているともいえる。そして、彼女が一定の支持を得ているという事実は、現代人が無意識に抱く資本主義経済に対する“しんどさ”や“苛立ち”の感情を象徴しているのかも。そういう“時代の空気”のようなものを忘れると、投資家も意外なところで落とし穴にはまるような気がします。

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