2015年3月17日

日本の投信が良心的だった頃―昔はアクティブファンドも低コストだった

モーニングスターによると、米国では公募型ファンドのパッシブ比率がついに30%を超えたそうです(パッシブの比率が史上初の3割を突破! バンガードとブラックロックの2強時代到来か)。大手運用会社による寡占化が進み、低コスト競争も一段と激しくなっています。ひるがえって日本の投信業界を見ると、あいかわらずコストは高止まりしたまま。とくにアクティブファンドのコストは世界の中でも数少ない上昇傾向にあるという異常な状態です。しかし、日本の投資信託も初めから高コスト体質だったわけではありません。古いファンドを見てみると「日本の投信も良心的だった時代があったんだなあ」という不思議な感慨に襲われます。

モーニングスターのファンド検索によると現在、日本でもっとも運用期間の長い投資信託は大和証券投資信託委託の「大型株ファンド」です。目論見書を見ると国内の優良大型株約70銘柄に分散投資するオーソドックスなアクティブファンドですが、設定日はなんと1961年12月2日。すでに運用期間は50年を超えています。

さらに驚くのが信託報酬の安さ。年率0.72%(税抜)です。へたなインデックスファンドよりも安いかもしれません。そして、これもすぐに気づくのですが、運用年数が30年を超えるようなファンドは、アクティブファンドでも信託報酬が年率1%以下というのがたくさんあります。じつは日本もある時期まではアクティブファンドの信託報酬といっても、この程度だったわけです。最近の高コストなアクティブファンドしか知らない私からすれば、昔は日本の投資信託業界も良心的だったのだなあと思ってしまいます。

ところが現在はどうなっているのでしょうか。モーニングスターで同じカテゴリーに属する大和証券投資信託委託のファンドを調べてみると「ダイワ・バリューアップ・ファンド」というのがありました。設定日は2006年2月15日です。モーニングスターレーティングは2015年2月段階で★★★★ですから成績は悪くありません。この信託報酬が、なんと年率1.52%(税抜)。「大型株ファンド」の倍以上のコストになっています。それでこの二つのファンドの過去3年間のトータルリターン(年率)を比べてみると、以下のようになります。

「大型株ファンド」 +26.61
「ダイワ・バリューアップ・ファンド」 +26.11 

なかなか拮抗していますが、わずかに大型株ファンドが上回りました(なお、過去1年なら「大型株ファンド」が、過去5年だと「ダイワ・バリューアップ・ファンド」が上回ります)。これを見て、じつにもったいないと思いました。もし「ダイワ・バリューアップ・ファンド」が「大型株ファンド」と同レベルのコストなら、確実にリターンで上回れたはずだからです。せっかくのファンドのポテンシャルが、コストによって損なわれているような気がします。

同じ運用会社の同じカテゴリーのアクティブファンドで、なぜこれほどコストに差が生まれるのでしょうか。それは運用管理費用明細を一目瞭然です。委託会社、販売会社、受託会社の取り分は次のようになっています(「大型株ファンド」は50億円以下の部分)。

「大型株ファンド」
(委託会社0.375%、販売会社0.2%、受託会社0.145%)
「ダイワ・バリューアップ・ファンド」
(委託会社0.735%、販売会社0.735%、受託会社0.05%)

非常にわかりやすい構図ですね。委託会社と販売会社の取り分が圧倒的に増加しています。驚いたことに財産保全という重要な役割を担う受託会社(信託銀行)の取り分もずいぶん叩かれています。

結局この50年間、日本の投信業界は運用会社や販売会社の利益を重視して推移してきたということがよくわかります。その究極形が購入手数料稼ぎのための回転売買でしょう。たしかに金融機関からすれば「大型株ファンド」を50年間も長期保有されては、利益効率が悪いということになります。

インデックス投資家の間では、日本のアクティブファンドの評判がよろしくないのですが、これではそう評価されても仕方のない面があります。しかし、インデックス投資の前提となる市場の効率性は、アクティブ運用が存在してこそ初めて確保できるものですから、私としてはもっとアクティブファンドに頑張って欲しい。もっと良質なアクティブファンドが増えて欲しいと思っています。そのためには、やはり現在のコスト体系を抜本的に見直す必要があるでしょう。なにも難しいことを要求しているわけではありません。50年前のように適正なレベルの利益分配をすればいいだけのこと。もし信託報酬が年率0.7%程度のアクティブファンドがいま登場すれば、運用方針によっては、私は買いますよ。

今後、投資信託の健全な発展のためには、やはり販売会社の役割とは何なのか、適正なフィーはどの程度なのかということを改めて考える必要も出てくるといえるでしょう。

(今回、大和証券投資信託委託の商品を例に挙げましたが、大和証券投資信託委託さんやその商品に対する他意はありません。逆に「大型株ファンド」を50年以上も長期運用している大和証券投資信託委託さんはすごいと感心しています。)

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