2015年3月28日

やはりダイナース買収の目的は資産運用事業との連携か

日経新聞によると、三井住友トラスト・ホールディングスが米シティグループの日本でのクレジットカード事業(シティカードジャパン)の買収に向けて本格的に交渉を開始したようです。買収額は400億円を超えるとか(「三井住友信託「ダイナース」買収へ 400億円強で」)。新聞報道も伝えるように、やはり三井住友THの狙いの本丸はダイナースクラブのようです。以前にも指摘しましたが、やはり三井住友信託銀行の富裕層向け資産運用事業との連携を視野に入れているようです。

三井住友THの本気度がよく伝わる記事がブルームバーグに出ていました。なんでも買収交渉のファイナンシャルアドバイザーに三井住友THは米ゴールドマンサックスを起用したそうです(「米GSが三井住友信託のFAに、シティのカード事業売却で」)。少しでも高値で売却しようとするシティグループとガチンコの交渉をしようということでしょう。そして、ブルームバーグも三井住友THの狙いが三井住友信託銀行とダイナースクラブカードの連携にあると明確に指摘しています。

“関係者によると、三井住友THは今回の買収により、シニア世代が中心となっている現在の顧客層をダイナースカードを持つ勤労世代などにも広げる狙いだ。また、富裕層が多いダイナースの利用者に三井住友信託の資産運用サービスなどを提供していくことも検討する。 ”

前にも指摘しましたが、これが上手くいけば三井住友信託銀行のサービスの魅力がかなり上がるのではないでしょうか。もともとダイナースは、他の決済ブランドと比較して圧倒的に1枚あたりの決済額が大きく、手数料収入の大きいカードです。これが他のプラチナ級カードと比べてやや割安な年会費ながら充実したベネフィットを維持できた要因です。そういった富裕層を三井住友信託銀行で取り込むことができれば、例えば大型ローン契約や投資信託の販売などでシナジーが見込めると踏んでいるのでしょう。また、グループ内にブランド力のあるクレジットカード会社を擁することで、ほかのメガバンクともようやく対等に競争できる武器がそろいます。

ただし、三井住友THとしては買収交渉を慎重に進めなければないということも分かっているようです。そもそもシティグループから日本での個人向け銀行事業を買収した三井住友フィナンシャルグループが、なぜシティカードジャパンに関心を示さなかったのか。グループに三井住友カードがあり、JVAの盟主であることがもちろん理由でしょうが、そもそもシティカードジャパンの収益力に魅力を感じていなかったということもあるはず。実際にここ数年、シティカードジャパンの各カードはサービスの改悪が続いており、ダイナースクラブも年会費が値上げされるなど苦しい懐事情を垣間見せていました。

そういった事業を買収するのですから、三井住友THとしても慎重に交渉を進めなければ、とんでもない高値掴みになってしまいます。実際にシティカードジャパンの現在の内容は、かなりお化粧されている公算が高い。事業売却が発表されてからのシティカードジャパンによるダイナースクラブカードの乱発は目に余るものがありました。名前は言いませんが、あるアフィリエイトサイトでは年会費を大幅に超える額のキャッシュバックをつけてダイナース発行のセルフバックキャンペーンが実施されていました。事業譲渡前に少しでも会員数を増やし、高値で事業を売却しようとするシティ側の狙いが露骨です。しかし、こうして水増しされた会員は三井住友THが求める富裕層ではありません。

こうした事業も踏まえ、あえて買収交渉のFAにGSを起用したのでしょう。恐らく手数料は日系金融機関を使うよりも高いはず。それでもシティグループを向こうに回しての交渉には、やはり“プロ”を雇おうということになります。

そういう意味では、三井住友THによるダイナースクラブカードの買収は、ダイナースのブランド力を再構築する取り組みから始めなければならないでしょう。そのためには、やはり魅力的なベネフィットを提供することしか方法はありません。買収交渉の行方を見守ると同時に、三井住友THのダイナース活用戦略に注目したいと思います。

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