2021年6月13日

「SEIKO5」は最良の機械式腕時計入門機―1万円前後で買えるのに満足度は高い

 

携帯電話が普及して以来、若い世代を中心に腕時計を使う人がかなり減りましたが、私はどうも携帯電話で時間を確認するというのがカッコ悪く感じるので、あいかわらず腕時計愛好者です。とくに機械式腕時計の独特の趣味性が大好きです。ただ、機械式腕時計はクオーツ式時計と違って若干面倒な面がありますから、いきなり高級ブランド品を買うのはお勧めしません。関心のある方は、まずは入門機として低価格の機械式時計を保有してみては。そこでお勧めなのが、機械式腕時計ファンの間でおなじみ「SEIKO5」シリーズです。

「SEIKO5」は、セイコーが1960~70年代に販売し、若者の間で大ヒットとした機械式腕時計です。「5」は「切れないゼンマイ」「耐震装置」「自動巻き」「防水」「デイデイト表示」という5つの機能を標準装備するという意味らしいです。なにより腕時計がまだ高級品だった時代にリーズナブルな価格帯を実現したことで大人気となりました。

その後、クオーツ式時計の普及で日本では販売を終了していたのですが、面白いことに海外向けには生産・販売が継続され、高い人気を維持しました。とくに新興国では「SEIKO」の高品質な機械式腕時計を低価格で手に入れられるということで、ある意味で「SEIKO」ブランドの定番にすらなっています。

なぜ海外で「SEIKO5」の人気が継続したのかというと、まだ多くの新興国ではクオーツ式が普及するだけのインフラが整っていなかったからです。つまり、電池を簡単に入手することが難しい国や地域がまだ多くあり、そういった国や地域では頑丈で低価格な機械式腕時計である「SEIKO5」は日常使いにもってこいだったのです(このため、曜日表示は英語のほかアラビア語とスペイン語のタイプがあります。中東や南米が主力市場なのです)。

その海外向け「SEIKO5」を並行輸入したものが日本でも販売されており、それこそ1万円前後から購入可能です。日本の機械式腕時計ファンの間でも人気があり、それこそ機械式腕時計ファンなら必ず数本は持っているのでは。かくいう私も機械式腕時計に興味を持ったばかりの20代の頃に初めて購入した機械式腕時計が「SEIKO5」でした。そして、実際に保有してみると、その満足度は想像以上でした。

「SEIKO5」の魅力ですが、まずステンレスケースの完成度。よくぞこの価格で実現したなと思える質感があります。また、搭載するムーブメント「7S26」は毎時21,600振動、パワーリザーブ40時間で、日差は-20~+40秒とされています。精度、耐久性、そしてコストのバランスが素晴らしく、まさに名作ムーブメントです。秒針ハック機能と手巻き機能がないのが欠点と言われますが、その分だけ部品数が少なくなり耐久性アップにつながっているとも言えます。また、デザインの豊富さも特徴です。無数のデザインが存在し、もはや全体像を把握できないくらい。海外での人気の高さと、そこでの消費者ニーズに応える形でセイコーが商品バリエーションを増やしていった結果でしょう。これもまた日本のメーカーらしいやり方です。

もちろん、欠点もいくつかあります。まずは金属ブレスのチープさ。セイコーは総じてブレスの作りが上手くない。「SEIKO5」の金属ブレスも基本的にステンレスの板巻ブレスです。ただ、これは価格を考えればしょうがないとも言えます。そもそも高級ブランドといえども金属ブレスが高級化したのはここ20年ほどのことで、かつてはロレックスの「サブマリーナ」とかも板巻ブレスでした。

もう一つの欠点は、皮肉なことですが、価格が安いゆえのメンテナンス性の悪さです。機械式時計はオーバーホールすることで一生使えるのが利点ですが、「SEIKO5」の場合はあまりに価格が安すぎて、オーバーホールするよりも新品を購入した方が安上がり。このため、どうしてもオーバーホールを躊躇してしまい、結果的に使い捨てになってしまう。ただ、なかなか壊れないのが「SEIKO5」の凄いところです。実際に使うと分かりますが、本当に壊れません。

ちなみに、「SEIKO5」の上級グレードとして「SEIKO5スポーツ」があります。ムーブメントも上位機が搭載され、秒針ハックや手巻き機能も付きました。金属ブレスの質感も改善しています。こちらは最近、セイコーがロゴも一新したリブランディングで国内販売を再開しました(「SEIKO5スポーツ」公式サイト)。

ただ、新型「SEIKO5スポーツ」は価格も大幅に引き上げられており、ある意味でセイコーが低価格な機械式腕時計から手を引きつつあることをうかがわせます。恐らく新興国でも低価格な機械式腕時計の需要が減っているのでしょう。何しろ最近は新興国でもスマートフォンが普及していますから、腕時計というのは実用品ではなく、装飾品としての意味合いが強まっているのです(これは多くの腕時計メーカーの戦略に大きな影響を与えています)。

そんな「SEIKO5」ですが、やはり機械式腕時計の入門機として最適でしょう。気楽に買える価格でありながら、機械式腕時計を使うことの満足感と、ときおり時間を合わすといった手間を味わうことができます。そして、最近のセイコーの動きを見ていると、いずれ安価な「SEIKO5」は海外も含めて市場から姿を消すような気がします。

そう考えると、これから機械式腕時計を試してみたい人は、いきなり高級ブランド品を買うのではなく、ちょっと試しに安い「SEIKO5」あたりを使ってみては。いきなり高級ブランド品を買っても、機械式腕時計が面倒くさくなって使わなくなる人も少なくないからです。それはもったいない。逆に「SEIKO5」あたりから始めて、機械式腕時計が好きになれば、いずれ必ず高級ブランドの機械式腕時計も買うことになるのですから。

【ご参考】
「SEIKO5」は現在でもネット通販などでたくさん売られています。Yahoo!ショッピングやAmazonで探してみると、気になるモデルが見つかるかもしれません。また、「SEIKO5スポーツ」も旧タイプがまだ手に入り、価格も安いです(2万円前後)。私が保有している2本と、いくつか気になるモデルを紹介しておきます

  

 

 

 

 

関連コンテンツ