2018年8月16日

トルコリラ・ショックでも明らかになった暴落より怖いもの



ここ数日は、トルコリラ暴落で投資界隈は持ちきりですが、SNSなどを見ていると今回もFXやトルコリラ建て債券に関する悲痛な書き込みが散見され、じつに気の毒です。こうした悲劇は定期的に発生しているのですが、やはり今回も改めて感じたことがあります。それは、トルコリラのようなローカルカレンシーでの投資には、暴落よりも怖いものがあるということです。

トルコリラのようなローカルカレンシーは実需が小さいため、為替マーケットで取引される量もドルやユーロ、円といったハードカレンシーと比べると極端に小さいのです。このため今回のような急変でパニック相場になると売買のオファーがどちらか一方に急激に偏ってしまい、売買自体が成立しなくなります。いわゆる“流動性の枯渇”という問題です。こうなると、暴落の際に急いで損切りしようと思っても、売るに売れないといった悲しい状態に陥ることがある。

今回のトルコリラ暴落でも、やはり流動性の枯渇によって日本で販売されている金融商品にも影響が出ています。例えば大和証券投資信託委託はトルコリラ建て債券に投資する投資信託の申込受付を中止しました。

「トルコ・ボンド・オープン(毎月決算型)」「トルコ・ボンド・オープン(年1回決算型)」申込受付中止のお知らせ(大和証券投資信託委託)

8月14日から27日まで申込受付が中止されますので、この間は購入だけでなく解約・換金もできません。つまり、もしこの間に再び大暴落があっても受益者は指をくわえて見ているだけという寂しい状況になります。「大和ひどい!」と思うかもしれませんが、別に大和証券投資信託委託は悪くありません。リリースは次のように理由を説明しています。
トルコ国債は一部の業者による極めて限定的な売買価格提示を除き、多くの業者が取引を見合わせている状況です。為替市場ではトル コ・リラのスポット市場(為替直物市場)こそ限定的に取引が成立しているものの、フォワード市場(為替先物市場)の取引は成立しておらず、流動性は枯渇した状況となっております。
運用会社も資産(この場合はトルコリラ建て債券とトルコリラ)を売るに売れない状態になっているわけです。こうなれば解約の申込受付も中止するしかありません。そうできることは、きちんと約款に定められているわけですから、受益者が文句を言っても、約款をよく読んでいないだけだと反論されて終いでしょう。

これが、いわゆる「流動性リスク」というものです。そしてリスク資産において価格変動リスクよりも怖いのが、この流動性リスク。よく新興国への投資はリスクが高いと言われますが、それは価格変動リスクが大きいからだけではありません。それ以上に流動性リスクが大きいことを思い知らされます。

ちなみにFXのような為替取引では流動性の枯渇はスプレッドの拡大という形で顕在化しますが、FXの場合はこれに取引システムリスクというか、業者リスクのようなものまで加わったります。今回もそういうケースがあったようです。


FXは相場が急変すると、なぜかこのようなシステム上の不都合が発生することが多い。取引システムにログインできずに損切りが遅れて強制ロスカットされるくらいならいいのですが、さらに怖いのは「値飛び」が起こって強制ロスカット自体が発動しないケースです。FXはある程度のレバレッジ取引が普通ですから、ロスカットできないととんでもない損失を被ることに。そして実際に2015年のスイスフラン・ショックの際には大きな値飛びが起こり、ロスカットできなかったプレイヤーが大きな損失を被りました。

スイス中銀ショックで国内個人投資家にも損害を与えた「値飛び」とは?(FX本陣)
スイスショックで借金の悲劇!個人投資家を直撃、裁判への動きも…(ZAiオンライン)

これはある意味で現行のFXの取引システム自体に起因するリスクでしょう。そして、こうしたシステムリスクを引き起こすのも、やはり流動性の枯渇という「流動性リスク」です。やはり「流動性リスク」というのは恐ろしいものなのです。

ちなみに、大規模な経済危機が発生すると、通常の株式や債券、そして不動産でも流動性が枯渇する場合があります。そして最後まで流動性が残るのが現金。あらゆる資産カテゴリーの中で、なぜ現金が最もリスクが少ないとされるのか。それは最も流動性に優れる資産だからというわけです。

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