2017年6月6日

パッシブ運用の隆盛で追い詰められているのはアクティブ運用ではなく、付加価値を提供できないファンドマネージャーでは



世界的にインデックスファンドなどパッシブ運用に資金が流れ、伝統的なアクティブ運用が苦境の陥るケースが増えているわけですが、どうも最近そのことを問題視する論調が増えてきました。日経新聞の電子版にもそういった記事が掲載されています。

膨張パッシブ 光と影 指数運用、市場拓くか歪めるか(「日本経済新聞」電子版)

ただ、これを読んで不思議な気分になります。たしかにパッシブ運用が増加しているのですが、それがそのままアクティブ運用の減少を意味していないような気がするからです。伝統的なアクティブ運用が苦しんでいるようですが、形を変えたアクティブ運用が増えているのでは。そしてなにより、伝統的なパッシブ運用の増加によって追い詰められているのはアクティブ運用ではなく、受益者に対して付加価値を提供できない平凡なファンドやファンドマネージャーたちにすぎないのではないかという気がしています。

記事によると、日本国内でも公募投信市場でのパッシブファンドの割合はETFを含めて8割にのぼるそうです。海外では2016年に株式パッシブファンドに3900億ドル(約43兆円)の資金が流入したとか。こうした動きをリードしているのは年金基金など大口の機関投資家です。日本も海外も同じですが、やはりアクティブ運用が安定的にパッシブ運用を上回るリターンを上げるのが難しいことが背景にあります。リターンが劣るなら、コストの安いパッシブファンドに資金が流れるのは自然なことでしょう。

ところが記事をよく読むと、パッシブ運用の増加がそのままアクティブ運用の衰退と言えるかどうか疑問が残りました。というのも、パッシブ運用への資金流入の中には、一般的な時価総額加重平均型指数に連動するインデックスファンドではなく、中長期的に市場平均を上回る期待収益を目指す「スマートベータ指数」に連動するファンドが含まれているからです。でも、スマートベータって、一種のアクティブ運用では。

スマートベータ指数に連動するファンドは、確かに運用の形態としてはパッシブ運用です。しかし、指数算出の過程でかなり人為的な要素が入っていますから、コンサバティブな運用関係者の間では、銘柄選択の面で一種のアクティブ運用であるという見方が少なくありません。昔からあるアクティブ運用手法である「フォーミュラ・プラン」やクオンツの「システム運用」とかなり近いのです。だからスマートベータに関して「運用業界が生み出した傑作マーケティング用語」という、ちょっと皮肉な見方もあるわけです。

ただ、ここで問題なのはスマートベータの是非ではなりません。それよりも、現在問題となっているパッシブファンドの隆盛とアクティブファンドの低迷は、見方を変えるとファンドマネージャーの個人的スキルによって運用する伝統的なアクティブファンドが、スマートベータのようなある種の“新しいアクティブファンド”に顧客を奪われているに過ぎないのではないかということです。

なぜ伝統的なファンドマネージャーがスマートベータに顧客を奪われるのか。やはりそれはコストが高いからでしょう。伝統的なアクティブファンドでもスマートベータファンドでも一般的なインデックスを長期的に上回ることができるかどうかは、やはり分からない。そうなると、どうせ分からないならコストが安い分だけスマートベータファンドの方が勝ちやすいような気がする人が出てきてもおかしくありません。また、ファンドマネージャーの個人的スキルに頼るよりも、定性・定量的に算出されるスマートベータの方がなんだか科学的で信用できると感じるのも人情として理解できます。

そして、この現象こそ運用におけるファンドマネージャーという仕事の未来像を暗示しているような気がします。現在はスマートベータに顧客を奪われているわけですが、これからは伝統的なボトムアップ・アプローチでもAIを使ったアクティブ運用などが実用化されることでしょう。そうなったときに人間のファンドマネージャーが果たす役割とは何なのかという問題です。少なくとも従来のようにリターンを上げることだけを目的とするような運用では勝てない。なぜなら、ともにインデックス上回ることができるかどうかは事前には分からないのは同じですが、人件費がかかる分だけ人間のファンドマネージャーによる運用はコスト高になってしまい、どうやってもスマートベータやAI運用にコスト競争力で負けてしまうからです。

そうなると人間のファンドマネージャーによる運用というのは、リターンに加えてコストに見合う「付加価値」を受益者に提供できなければ支持されないということだと思う。そして現在起こっている伝統的なアクティブファンドの凋落というのは、まさにファンドやファンドマネージャーがコストに見合う付加価値を受益者に提供できていないことが要因ではないでしょうか。

では、伝統的なアクティブファンドや人間のファンドマネージャーが提供すべき付加価値とは何でしょうか。これはじつに難しい問題です。もしかしたらそれは「情報」「体験」「対話」「哲学・思想」「共感」といったものかもしれません。恐らくこの問題を解くことがアクティブファンドの未来を決定するのでしょう。そして少なくとも付加価値を提供できないサラリーマン的ファンドマネージャーは、間違いなく淘汰されていくことだけは確かなような気がします。現在起こっているアクティブファンドの苦境というのは、その“終わりの始まり”なのかもしれません。

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