よく個人投資家は短期売買ではなく長期投資をするべきだと言われます。確かにプロ投資家と比べて情報量や機動力に劣る個人投資家は、短期よりも長期で投資した方が間違いが少なくなります。しかし、投資の世界に絶対はありませんから、長期投資だからといって必ず報われるわけではないのは当然のことでしょう。しかも、本物の長期投資はやり直しがきかない。ほとんどの人は、人生の中で長期投資に挑戦できるチャンスは1回しかないとさえ言えます。長期投資には、そういった厳しい側面があるのですが、そこでできるだけ失敗しないためにするにはどうすればよいのか。案外それは、「最善」を求めずに「次善」を狙うことかもしれません。その方法が積立投資でありインデックス投資でしょう。ここに長期投資と積立投資、そしてインデックス投資という三つの投資手法が、なぜ相性が良いのかという秘密が隠されています。
投資をいつ始めるかはひとそれぞれですが、やはりある程度は経済的に落ち着いた状態にならないとリスクをとることができませんから、早くても30歳ぐらいではないでしょうか。そうなると90歳まで生きたとしても、投資期間は最大60年。本物の長期投資の期間を30年とすると、2回しか長期投資を実行するチャンスがありません。あるいは高齢になればそれほどリスクが取れませんから、ある意味で30年、40年の長期投資というのは、人生の中で1回しか挑戦することができません。
長期投資には、そういった厳しい側面があります。それでも人間の経済活動の未来を"信じて「やってみるしか・ない」と指摘しているのがカン・チュンドさんです。
『長期投資』は一生に1度しか経験できません(カン・チュンドのインデックス投資のゴマはこう開け!)
長期投資とは、常に未来への変化を信じることであるというカンさんの思考がよく分かる文章です。でも、世の中の多くの人は人類の未来と同じくらい、自分の限られた人生の中での成功が気になるもの。そういう人情があるからこそ、長期投資の有効性といういうのは常に議論の的になってきました。ケインズも「長期にはみんな死んでいる」と言っています。はたして自分の人生の中で長期投資が報われることはあるのだろうか。人生の中で長期投資に挑戦できるチャンスは1回しかないからこそ、そこに不安が生まれます。
そういった不安を克服するためには、思い切って「最善」を求めることを止めてみてはどうでしょう。最近、面白い文章を読みました。フィデリティ退職・投資教育研究所が開所10周年を迎えたそうで、野尻哲史所長がコラムを書いています。
フィデリティ退職・投資教育研究所、設立10周年(フィデリティ投信「資産運用ナビ」)
フィデリティ退職・投資教育研究所が実施してきたアンケート調査結果の変遷に触れた興味深いコラムですが、それ以上に注目したのが、野尻さんの次のような指摘でした。
「投資は価格の安い時に買って高い時には買わない」のが鉄則ですが、それはなかなか簡単ではありません。そのため「投資は価格の安い時に(たくさん)買って、高い時には(少ししか)買わない」という次善の策が大きな効果を持っていること、すなわち定額での積立投資の重要性を理解することが資産形成には大切です。野尻さんは「積立投資」はあくまで"次善の策"だと指摘していることが重要。積立投資と一括投資のどちらが有利なのかはよく議論されるわけですが、こんなものは答えが出ていて、タイミングが良ければ一括投資の方が圧倒的にリターンが良いのは当たり前です。しかし、そのタイミングを知ることが容易ではないから、次善の策として積立投資がある。でも、この"次善の策"が長期投資においては輝くのです。
なぜ次善の策が輝くのか。それは、長期投資は人生の中で1回しかチャンスがないから。最善のタイミングを狙って投資したとして、1度でもタイミングを間違えれば、それでジ・エンド。やり直しがきかないからです。つまり長期投資において最善を狙うことは、同時に最悪の結果となる可能性も高めてしまう。そういう取り返しのきかない失敗を避けるために、最善を狙うのでなく次善を確保しようというのが積立投資です。これなら最善の結果を得ることはできませんが、最悪の結果になる可能性は小さくしてくれます。それはツマラナイことですが、人生においてたった1度しかチャンスがない長期投資においては、実に意義深い戦略です。
こうした考え方は、何に投資するのかという判断においても意味があります。投資で最善の結果を得るためには、より高いリターンが見込める対象に集中投資した方がいいに決まっています。しかし、より高いリターンとなる対象が何なのかを見極めるのは簡単ではありません。そして、やはり長期投資は人生の中で1回しかチャンスがないのですから、投資対象の選択も1度間違えれば、それでジ・エンド。そういう最悪の結果を避けるために、やはり次善の策として幅広い対象に分散投資する方法がある。これこそがインデックス投資です。これなら最善の結果にはなりませんが、最悪の結果にもならない。常に"平均"という次善の結果を確保できます。やはりそれはツマラナイことですが、人生においてたった1度しかチャンスがない長期投資においては、やはり意義深い戦略です。
ここに長期投資、積立投資、インデックス投資という三つの投資手法を組み合わせる意義が見えてきます。三つの投資手法はバラバラに存在しているのではありません。それぞれが有機的な繋がりを持っている。だからこそ三つの投資手法を組み合わせることが、投資戦略として整合性を持つと言えるのでしょう。人生において長期投資のチャンスは1回しかないからこそ、積立投資とインデックス投資という、ともに"次善の策"として存在する投資手法もまた輝くのです。
【ご参考】
長期投資、積立投資、インデックス投資の関係性に気づくと、とくに積立投資と一括投資との「有利・不利論争」も無意味だということに気づくでしょう。長期投資にとって積立投資はリターンを高めるために有利ではないけど、失敗を避ける上で有効なのです。積立投資の有効性に対する具体的な検証はカン・チュンドさんの『忙しいビジネスマンでも続けられる 毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術』、星野泰平さんの『終わりで大きく儲かる「つみたて投資」』が参考になります。