2016年7月31日

GPIFの2015年度の運用実績は5兆3000億円の損失に―渋み溢れる運用手腕に感心しました



年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度(15年4月~16年3月)の運用実績が発表されました。資産残高の収益額は5兆3000億円の損失、収益率は-3.81%でした。これにより資産総額は134兆7000億円となります。予想通り世間ではGPIFの運用を批判する声もあるわけですが、そういった人はGPIFのホームページにアップされている「運用状況の概況」と詳細な「業務概況書」に、ぜひ目を通して欲しいと思います。

「平成27年度運用状況の概要」(GPIF)
「平成27年度業務概況書」(同)

また、YouTubeのGPIF公式チャンネルに髙橋則広理事長による説明記者会見がアップされていて、これがいちばん簡潔に理解できます。



平成27年度業務概況書会見説明資料

厳しい投資環境に中で、じつに健闘しているいるというのが第一印象。それこそ渋み溢れる運用手腕に、あらためて感心しました。これぞパッシブ運用を中心とした国際分散投資の見本のようなやり方です。

一部メディアや政治家が5兆円の損失ということを取り上げて問題視していますが、そもそも年金運用というのは超長期(それこそ制度が廃止にならない限り永久に続く)の運用ですから、わずか1年間の損益を取り上げて評価しても意味がありません。

また、日本の公的年金制度は賦課方式ですから、GPIFの運用というのは収支調整のための基金です。日本は少子高齢化ですから、どうしても年金支給総額が保険料収入+国庫負担を上回ってしまう。そこで余剰金として積み立てられてきたGPIFの資金を運用で殖やしながら、100年かけて少しづつ取り崩していく設計になっています。逆にいうと、きちんと運用して時間を稼がないと、早晩に保険料の大幅引き上げと給付額の大幅切り下げをしないと年金制度が破綻するのです。このあたりの事情はブログで何度も書いてきました。
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こういった冷静な視点からGPIFの2015年度運用実績を見ると、なかなか立派なものです。なにしろ15年度は投資環境がひどかった。チャイナショックや原油安に端を発する世界同時株安などほんと良い記憶がありません。そこでこの成績。5兆円という損失額を見ると大事のように感じますが、収益率で見れば-3.81%です。これぐらいのマイナスは、投資をしていればそれほど少なくない頻度で体験するものです。

実際に昨年の環境で運用成績が-3.81%に収まった投資家がどれだけいたでしょうか。意外ともっと大きい損失を出している投資家は少なくないと思います。そういう意味でパッシブ運用を中心に3%台の損失で済んだのは、ポートフォリオの配分がそれほど過剰リスクになっていなかったということです。

また、GPIFが市場運用を初めてからの累積収益の推移を見れば、やっぱり大健闘しているということが分かります。


(「平成27年度業務概況書会見説明資料」から)

15年間で残高を45兆円増やし、平均収益率は2.7%。じつに渋い数字です。しかも収益45兆円のうち、21兆円は利子・配当収入によってもたらされました。これぞバイ&ホールドによる長期投資の理想的な姿です。私もグローバルポートフォリオを組んでインデックス投資を行っていますが、これぐらいの平均収益率を15年間も維持できれば投資は大成功でしょう。

もちろん従来の国債中心の資産配分から、株式50%・債券50%という現在の基本ポートフォリオ資産配分になったのは14年からですから、ある意味で株式を高値掴みしたという批判もあります。しかし、GPIFの運用資産は巨額ですから、資産配分の変更は時間をかけてゆっくりと行わないと市場に混乱をもたらす危険性があります。逆に14年からゆっくりと株式のウエートを高める過程で、その段階では的確に押し目を買っていったのではないでしょうか。だから15年度のマイナスが、この程度で済んだような気がします。

さらに重要なことは、もし今も従来のように国債中心で運用していたらどうなっていたことか。単年度での損失は少なくなったでしょうが、保有する国債の多くははマイナス利回りとなっていたでしょう。そのまま保有し続ければ満期償還時に確実に損失となります。利子・配当収入も大幅に低下します。今回の5兆円という数字を見て、再び債券のウエートを増やせと言う人がいますが、とんでもないことです。それは目先の損失を恐れて、将来のより大きな損失を抱え込む危険性があるからです。

そして、こういた詳細な情報を積極的に開示し、理事長自ら丁寧な説明会見まで行うGPIFの姿勢にも好感を持ちました。現在、日本でこれほど充実した情報公開をしている機関投資家はいません。いまだに「投資=ギャンブル」といった偏見を持つ人が多く、年金運用とは何かということも知らない人が少なくない日本で、GPIFは少しでも理解を得ようと努力している。その姿勢は、運用成績とは無関係に、大いに評価するべきなのです。

たしかに現在の公的年金制度には多くの問題があります。しかし、それは制度の問題であって、運用の問題ではありません。少なくとも運用は健全に行われている。もし、GPIFの運用を批判するなら、最低でもGPIFが公開している情報に目を通してからにするべきでしょう。ただ単に一時的な損失額だけをあげつらって批判するのは、厳しい運用環境の中で黙々と国民の財産を増やそうと努力しているGPIFの姿勢と比べて、どれほどあさましい姿か思い至るべきです。

コモンズ投信の渋澤健会長が、GPIFの運用について次のような指摘をしています。

長期運用の公的年金だからこそできること(NIKKEI STYLE)

ESG投資の是非については措くとして、「年金資金を株なんかに投資するな」と言う人は渋澤さんの次の指摘をじっくりと考えて欲しい。

GPIFが応えなければならない受益者とは現在の年金受給者ではない。あくまでも未来の年金受給者だ。その未来の年金受給者がマイナス金利になっている国債を単純に買い続けてほしいと思っているわけがない。

年金運用を批判する人は「人の金を勝手にギャンブルに使うな」とか言うのですが、GPIFの積立金は、そう言っているあなたのお金でははありません。100年後の受給者のためにあるのです。
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