2016年6月29日

国の年金運用への不安を煽る理由



Brexitショックで世界同時株安となったわけですが、こういうふうに相場が下落すると必ず登場するのが公的年金の運用に対する不安です。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用成績が7月末には発表されますが、約5兆円の損失になっているという試算がいろいろなところから出され、すわ「年金運用は失敗だ」「国民の老後資金を海外の投機家に差し出したようなものだ」といった批判が噴出したりします。そりゃ、ある期間だけを切り取って運用成績を算出すれば、マイナスになるときもあればプラスになるときもありますって。そもそも年金運用というのは超長期の運用なので、一時的な損益は参考にしかならないのですが。こういった状況に対して、大江英樹さんがビシッと言っててくれました。

国の年金運用で5兆円損失、「失敗だ!」批判は間違いである…年金危機説のウソ(Business Journal)

じつに痛快な文章。こういう遠慮会釈のない意見を述べてくれるおじいちゃんの存在は、世の中にとって大切です。

大江さんも指摘していますが、日本の公的年金は賦課方式なので、ある年度の年金支払いの原資は、その年に徴収した保険料収入と一部税金で賄われます。保険の大原則である「給付は負担」となっている。そして、給付よりも保険料収入が多ければ、その余剰金がGPIFに繰り入れられるし、保険料収入が給付を下回ると不足分がGPIFから取り崩される。GPIFの積立金はあくまで収支を調整するための基金です。だから極端な話、GPIFの積立金が全損しても公的年金は破綻しません。たんに給付=保険料収入+税金の公式が成り立つ範囲で給付額と保険料が調整された制度に変更されるだけです。

ではなぜGPIFが積立金を運用する必要があるのかといえば、日本は少子高齢化ですから、どうしても保険料収入よりも給付の支出の方が大きくなってしまう。毎年積立金を取り崩す必要があります。なので少しでもお金を増やすことで時間を稼ぐ必要がある。なぜなら積立金が枯渇すれば、その段階で給付額の削減と保険料・税金の引き上げをやらないといけない。でも急にこれをすると国民生活が破綻してしまう。国民の側にだって準備する時間が必要です。

それでGPIFの運用ポートフォリオを見ると、とくにおかしいところはありません。2015年12月末段階のポートフォリオは、国内債券37.76%、海外債券13.50%、国内株式23.35%、海外株式22.82%、短期資金2.57%です。ざっくりと債券50%・株式50%、国内資産60%・海外資産40%ですから、海外の年金基金のポートフォリオと比較しても、じつに平凡なのです。だから、大江さんが書いている次の指摘は正しい。
いろいろ問題はあるものの、私は日本の公的年金の運用自体は非常に健全だと思っています。年金は制度自体が万全であるとは思いませんが、少なくとも運用に関しては問題があるとは思えません。
日本の公的年金制度に問題があるとするなら、それは運用の問題ではなく少子高齢化の中で賦課方式をどうやって維持するのかという点です。これは運用成績とはまったく無関係に制度の改革が必要ということであり、少なくとも運用に関しては健全に行われている。健全というのは、オーソドックスだという意味です。

こういう話は、べつに私がどうこう言うまでもなく、専門家の間では何度も議論が交わされてきたし、政府も政治的に可能な範囲で対策を進めています。それでも年金運用に対する不安を煽る言説が登場するのはなぜか。この点に関して大江さんはズバリと書いてくれました。
しかし、公的年金が健全だと具合の悪い人たちがいます。年金不安を煽らないと自分達の金融商品を買ってもらえなくなる金融機関であり、その金融機関から大量の広告をもらっているマスコミです。
大江さんの指摘に付け加えるなら、庶民の不安を煽って自己の権力を強化しようとしているポピュリスト政治家の存在も挙げておきましょう。年金問題は国民にとって大切な問題です。だから、それを議論するなら持続可能な制度はどうあるべきかを議論するべきであって、単に運用で損失(実際は単なる含み損にすぎない)が出ていることを声高に指摘するだけなら、それこそ“為にする議論”であって、市民社会にとってかえって有害な存在であるといっても過言ではないでしょう。

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